猫の後ろ姿 2275 アガサ・クリスティー『ポアロのクリスマス』
今年も暮れつつある。
今年は、アガサ・クリスティーを文庫でいくつも読んだ。
登場する人物たちの、自分の人生への懸命なあがきがとてもよかった。
この『ポアロのクリスマス』も、クリスマスの2日前に読み始めたのに、
諸事重なって、昨日やっと読み終えた。堪能した。
中でも、リー家の四男の妻、ヒルダが魅力的だ。
ヒルダの声は低くて、人の気持ちを落ち着かせるような心地
よさがあった。
豊満な体つきのヒルダは、美人ではないが人をひきつける
魅力の持ち主で、どことなくオランダの絵画を思い出させ
た。その声は人の心をあたため、親愛の情を抱かせた。それ
は彼女に備わった強さ―弱いものに訴えかける、表には見
えない生き生きとした強さ―だった。いかにも頑丈そうで、
ずんぐりしていて、とくに賢いわけでも才能があるわけでも
ない中年の女。だが、彼女には人が見過ごすことのできない
なにかがあった。気迫だ。ヒルダ・リーには気迫があった。
ヒルダは優しい声の持ち主であり、そして彼女は事にあたって気迫をもって対した。その優しさと気迫は彼女の本質であった。
優しさと気迫を同時に持つ女性を僕はひとり知っています。
初美さん、どうぞ、来年も元気でいてください。