猫の後ろ姿 2273 金子文子研究会 佐藤信子さん追悼 | 「猫の後ろ姿」

猫の後ろ姿 2273 金子文子研究会 佐藤信子さん追悼

毎日新聞 2020・06・29

 

 

 「金子文子研究会」の世話役を長くつとめて来られた佐藤信子さんが先日亡くなられ

 た。追悼文集に、私もごく短いものではあるが次のような文を捧げた。

  人としてのまっとうな生き方をした佐藤さんの柔らかな声を懐かしく思い出してお

 ります。


 「佐藤でございます。」
 金子文子研究会の例会が近づくと、出席を促す佐藤さんのいつもの柔らかな声が電話から聞こえて来ました。
 この世にあることはそれぞれに難しいこともあるけれど、大切なことを怠ることなく重ねていきましょうとその声は静かにかたりかけてくるようでした。この世に人として共にある者への、心深い呼びかけの声でした。

 金子文子の『何が私をこうさせたか』に次の一節があります。

 間もなく私は、この世から私の存在をかき消されるであろう。しかし一切の現象は現象としては滅しても永遠の実在の中に存続するものと私は思っている。

 「私」という一個の現象が死とともに消え去ろうとも、より良き世を求めるその心は、「永遠の実在の中に存続する」。
 より良き世を有らしめようという希求は、永遠のうちに存続し、次の世代の心の裡に受け継がれていくこと。
 受け継いでいくもののことを「眷属」というのだそうです。大切な何かを伝えて行く<魂の眷属>によって、時代と場所を越えて大切なものが手渡されてゆく。佐藤さんは金子文子の

<魂の眷属>であった。佐藤さんから僕等にも大切なものが手渡された。そして僕ら何を次に手渡せるのか。
 佐藤さんの深い問いかけの言葉をもう一度思い返しております。