猫の後ろ姿 2240 気骨ある精神 奈良岡正夫、奈良岡朋子
奈良岡朋子さん(劇団「民芸」代表)が93歳で亡くなったという新聞記事の最後に、「父は洋画家の奈良岡正夫さん。」とあった。えっ、あの奈良岡正夫の娘だったんだと遅ればせに知っておどろいた。
https://youtu.be/JpCELJobnkA
原爆忌声朗朗と響かせて奈良岡朋子『黒い雨』読む
(箕面市)田中令三
テレビ宮崎1999年制作のドキュメント「秘匿 戦争記録画151点」の中で僕は奈良岡正夫を観た。
敗戦直後、「京城」(現在のソウル)にいた画家・山田新一は、焼却されかけた日本の「戦争記録画」60数点のキャンバスだけを枠から外してひそかに隠した。それがこのドキュメントのタイトル「秘匿」の意味。
「戦争記録画」を守るために隠したのはこの山田新一だけではなかった。敗戦時、青森に巡回していた聖戦画・戦争記録画30数点を、画家・奈良岡正夫が山田と同様に、<燃やしたことにして>隠した。そして戦後、GHQの命を受けて戦時下に描かれた「聖戦画」回収に来た山田新一に渡した。
何故隠したのかと問われた奈良岡が、「命がけで描いた作品だよ」と一瞬、気色ばむあたり、迫力があった。奈良岡が「聖戦画」を秘匿したこと、このドキュメント制作当時、奈良岡が96才で健在であったことなど、初めて知ることばかりだった。
「黒い雨」を朗々と読んだ奈良岡朋子さんが、この気骨ある画家の娘であること。確固とした精神の系譜をここに見る。
奈良岡正夫 従軍記者 1944年
東京都現代美術館 福富太郎コレクション