猫の後ろ姿 1750 「酒が飲みたい夜」 高田渡と石原吉郎 | 「猫の後ろ姿」

猫の後ろ姿 1750 「酒が飲みたい夜」 高田渡と石原吉郎

 

 

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 高田渡の歌う「酒が飲みたい夜は」に胸を突かれた。 その歌詞は次の通り。

 

酒が飲みたい夜は 酒だけではない

未来へも口をつけたいのだ

日の明け暮れ うずくまる腰や

夕暮れとともに沈む肩

 

血の出るほど 打たれた頬が

そこでもここでもまだ火照っているのに

うなじばかりが 真っ青な夜明けを

真っ青な夜明けを待ち望んでいる

 

酒が飲みたい夜は ささくれ立った指が

着物のように着た夜を剥ぐ

真夜中の大地を 掘り返す

夜明けは誰の 葡萄の一房だ

 

酒が飲みたい夜は 酒だけではない

未来へも口をつけたいのだ

日の明け暮れ うずくまる腰や

夕暮れとともに沈む肩

 

 この詩は詩人・石原吉郎の詩をもとにしている。元詩は次の通り。

 

石原吉郎「酒が飲みたい夜」

 

酒がのみたい夜は

酒だけでない

未来へも罪障へも

口をつけたいのだ

日のあけくれ

うずくまる腰や

夕ぐれとともにしずむ肩

酒がのみたいやつを

しっかりと砲座に据え

行動をその片側ヘ

たきぎのように一挙に積みあげる

夜がこないと

いうことの意味だ

酒がのみたい夜はそれだけでも

時刻は巨きな

枡のようだ

血の出るほど打たれた頬が

そこでも ここでも

まだほてっているのに

林立するうなじばかりが

まっさおな夜明けを

まちのぞむのだ

 

酒がのみたい夜は

青銅の指がたまねぎを剥き

着物のように着る夜も

ぬぐ夜も

工兵のようにふしあわせに

真夜中の大地を掘りかえして

夜明けは だれの

ぶどうのひとふさだ

 

 日本の敗戦時に石原吉郎は「シベリア抑留」となり、8年を極寒のシベリアで生きた。元の詩には、石原の戦争体験がくっきりと刻まれている。

 高田渡はこの詩をかみくだき、戦後の日本人の生きる場にさしもどしている。しかし、この歌からは平時こそが戦時なのだという渡さんの静かな声が聞こえてくるようだ。