猫の後ろ姿 390 東京に・・・ 久保田万太郎のこと | 「猫の後ろ姿」

猫の後ろ姿 390 東京に・・・ 久保田万太郎のこと


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  東京に出なくていい日みそさざい 久保田万太郎

 戦後すぐは万太郎は鎌倉に住んだ。自分から仕事を買って出て、忙しくしているような万太郎だったけれど、時には東京に出るのが嫌になったのだろう。そんな時の句がこれ。

 自分の句の中に使いながら、「みそさざい」なんて鳥、あたしゃ知りません、と万太郎は言ったというところ、いかにも万太郎らしい。

 ぼくも台風の接近を理由に今日は一日、家でのんびりしようと思います。奥さんも今日はお休みですから、昼からワインでも飲んで、昼寝でもしようかな。

 万太郎を主人公にして、戯曲を一つ書いてみたいと随分以前から考えている。題は決まっている。「ひとりむし」。火に寄って来る蛾の事なんだそうだが、万太郎その人でもある。
  
 火取り虫ついにひとりとなりにけり

 こんな句を中で使いたい。万太郎の全句集にもこんな句はない。これは僕が作ったものだ。

 「駄目だね、まるでなっちゃいません。句になってません。」と万太郎には言われそうだが、まあその辺は御愛嬌で、御勘弁を願いたい。