【紹介】
 今回は,小野寺史宜さんの小説「いえ」の紹介です。
 本作は,2022年に単行本で,2025年に文庫本で刊行されました。
 文庫本で約330ページの長編作品です。

 「ひと」 「まち」に続く三部作と言われています。
 この3作は続編ではありませんが,世界線が同じであることが明確に描かれています。そのため,他作品の登場人物が何人か出てきます。
 本作も「ひと」「まち」と同様に,一人の青年の成長を描いたハートフルストーリーです。

 



【あらすじ】
 三上傑は,足に重傷を負った妹の若緒がいる。若緒は,傑の親友である大河が引き起こした交通事故によって負傷してしまう。そのことから,傑は親友だった大河とは疎遠になっていた。さらに,若緒の怪我が原因となって両親も喧嘩が絶えなくなり,家庭内がぎくしゃくしている。
 傑は家庭環境に振り回されながらも何とか取りなそうとするが,職場の人間関係の悩みなどが重なって,半ば自暴自棄ぎみになってしまう。そんな自分を変えるために,傑はさまざまな人と向き合って,状況を改善しようとする。


【レビュー】 ※以下,ネタバレが含まれています。
 「ひと」 「まち」の2作には共通点が多く,主人公のキャラクターもよく似ていましたが,「いえ」の主人公である傑は,置かれている境遇がそれらとはまったく異なります。
 主人公の環境面での大きな相違点としては,以下の点が挙げられます。
 ・両親と妹がいて,4人で一軒家に同居している。
 ・生まれも育ちも東京である。
 ・物語の初めからガールフレンドがいる。
 ・フリーターではなく正社員として働く社会人である。

 若くして両親を失っている前作2作の主人公とは,大きく違うことがわかります。

 性格面でも違いがあります。
 「ひと」の主人公・柏木聖輔と「まち」の主人公・江藤瞬一が,穏やかで奥手なのに対して,傑は常識人ではあるが,勝ち気なところがあり,稀に好戦的な態度を見せることがあります。一人称が「おれ」であるところからも,それが表れています。

 最も大きな違いは,本作には「悪人」が多く登場する点です。
 「ひと」「まち」には悪人といえる悪人はごく少数しかいなかったのに対して,「いえ」にはかなり多く出てくるのです。
 ・父に何かと難癖をつけて勝手に家を出ていく母
 ・無神経な発言で傑の気持ちを逆なでする同級生の亮英
 ・気弱そうだからというだけの理由で傑に強く当たる職場のパート・泉田

 主要人物だけでもこれだけいます。
 性格が悪いわけではありませんが,妹の若緒を結果的に傷ものにした大河も,傑にとっては「悪人」なのかもしれません。
 話のテーマが「崩れた人間関係を立て直すこと」なので,このような人物の存在が必要になってくるのはしかたのないことですが,善人で満ちあふれていた「ひと」「まち」を読んだあとだと,結構刺激が強かったです。

 逆に言えば,「まち」の主人公・江藤瞬一が人に恵まれすぎていたので,本作ぐらいの方がリアリティがあるというか,等身大の主人公として共感できる部分がありました。

 人間関係に苦しんでいた傑も,終盤では自ら勇気を出して一人ひとりと和解するために行動を起こします。
 そういう意味では,後味が良い作品となっています。

 冒頭でも述べたように,三部作間で世界線が共有されていますので,共通のキャラクターがいろいろ出てきます。
 「ひと」と「まち」の間では局所的でしたが,「いえ」と「まち」との間にはさらに深い繋がりがあります。
 何と,「まち」の主人公だった江藤瞬一,そして高校生の郡唯樹が,モブキャラとしてではなく,傑と親交のあるキャラクターとして出てくるのです。
 この2人は傑の近所に住んでいるという設定なので,頻繁に遭遇します。
 他視点小説を読んでいるようで,なかなか面白い見せ方でした。

 ひとまず,小野寺先生の三部作をすべて読了しました。
 どれも素朴で優しい気持ちになれる名作でした。
 他にも面白そうな作品を多く出していますので,これから徐々に読んでいきたいと思います。

 

 

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