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第四章 前言撤回
自分のせいで周りの人間が次々に不幸になっていく。しかも、命にかかわる事態に陥っている。そんな状況が続き、森井は心を病み、自暴自棄になった。会社を休み、誰との連絡も絶ち、一日の大半を家で引きこもるようになった。
「久しぶりに外に出てみるか。」
森井はあてもなく玄関を出た。こんなときに限ってどしゃ降りの雨。傘も差さずに歩き始めた。森井の心の中は、自分自身に対する憎悪の気持ちでいっぱいだった。
「このまま消えてしまった方がいいのかも。」
そうつぶやいた瞬間、激しい雷が鳴り、森井を直撃した。森井はその場に倒れて意識を失った。
気が付いたら、森井は見たこともない場所にいた。何もない無機質な空間。そこをさまようように歩いている。
「そうか。僕は雷に打たれた。ここはたぶん、天国に向かう道なんだ。いや、地獄かも。」
目の前に、見知らぬ老人が現れた。見るからに奇天烈な風貌をしている。老人は、森井に語りかけた。
「望みどおりになったぢゃろ?」
その瞬間、森井の頭の中がすべて繋がった。不可解なことが起こるようになったのは、自分が「神様、仕事しろ!」と叫んだときからだ。自分が憎んだ人たちが次々に不幸になったのは、神様の仕業だったんだ。雷に打たれたのも、自分で自分を憎んだからだ。しかし、これは自分が望んでいたことではない。このままでは、自分とかかわる人たちが全員消えてしまう。森井は咄嗟に叫んだ。
「神様、やりすぎだよ!」
次の瞬間、森井は倒れた場所で意識を回復した。なぜか体は無傷だ。
家に帰ると、玄関前で田島が待っていた。
「おお森井、待ってたんだぜ。聞いてくれよ。俺、がんの手術が成功して完治したんだよ。何が何だかわからないんだけど、もうピンピンしてるよ!」
田島と別れて家に入るとすぐに、今度は警察から電話があった。何でも、熊に襲われて重体だった両親が奇跡的に意識を回復したのだそうだ。あと一か月もすれば、退院できるらしい。
翌日から、森井は会社に復帰した。駅に向かう途中、若い女性に声をかけられた。
「あの、覚えていますか? 前にこのあたりでお会いした……」
いつか、心臓マッサージで助けようとした自分を変質者呼ばわりした女性だ。
「あのときは、大変失礼しました。近くにいた人に聞いたら、あなたは私を助けようとしてくれたんですね。どうもありがとうございます。」
「いえ、そんなことはもう……」
「お詫びとお礼に、今度食事をごちそうさせてください。よかったら連絡先だけでも。」
夜、会社から帰宅した森井は、あのときと同じように、自分の部屋で天井を見つめていた。
「運とかツキとか、そういうことに振り回されるんじゃなくて、ありのままの自分として生きていくことの方が大事なんだね。これからは、神頼みとかそういうのをやめて、無理をせずにやっていくよ。あんな怖い想いをするのはもうごめんだから。ねっ、神様。」
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