【紹介】
今回は,中山七里さんの小説「棘の家」の紹介です。
初めて読んだ作家さんの本です。文庫本は今年の4月に刊行されたばかりで,書店の文庫本コーナーに取り上げられていたので,興味を持って買ってみました。帯に書かれている「家族全員、容疑者」という文字が印象的でした。
【あらすじ】
中学教師の穂刈慎一は,事なかれ主義で優柔不断。その穂刈の娘が,いじめを苦に自殺未遂を起こす。被害者の父として,マスコミを利用していじめ加害者の家族を徹底的に叩こうと試みた結果,情報が過剰に広がり,加害者の少女が何者かによって殺害されてしまう。穂刈の家族である妻,息子,娘を含む,登場人物全員が容疑者となり得る状況の中,穂刈は真相を究明するために独自で調査を始める。
【レビュー】 ※以下,わずかながらネタバレが含まれています。
350ページを超える大作で,あちこちに伏線が張り巡らされているミステリーです。文章の中にユーモアはほとんどなく,終始シリアスな調子で話が進みます。
第四章を除いては,一貫して穂刈慎一の視点で話が進みます。この主人公は,事なかれ主義で優柔不断ではあるものの,基本的には冷静で真面目な人物として描かれています。しかし,ときどき冷静さを失い感情的になったり暴走したりする場面があり,等身大の人間らしさを感じさせ,読み手を共感させるのだと思いました。
家族の妻,息子,娘は,悪い人間ではないのですが,全員が何かしらの闇を抱えていそうな雰囲気で,彼らのうちの誰が犯人であってもおかしくないように見せるのが,とても上手でした。
ミステリーとしてのミスリードも非常に巧妙で,それがただのミスリードを目的としたものではなく,真相にちゃんと絡んでいるところは,うまくできていると感じました。
全体的に難解な言葉が多用されているところも印象的でした。ルビは固有名詞と常用外漢字に書籍初出で付けられているのですが,章をまたぐと前に戻って読み方を調べるのが困難になるので,文脈から意味を推測していく読み方が必要になりました。読んでいるだけで語彙力が鍛えられる作品です。