32歳の女性。未経妊。不正性器出血を主訴に来院した。挙児希望があるため、子宮に癌がないかと心配している。1年前から月経周期は40~45日型で不整。月経痛も自覚している。子宮頸がん検診は26歳から毎年受けているが、異常は指摘されていない。身長152cm、体重66kg、血圧144/92mmg。内診で子宮は正常大で可動性良好。経腟超音波検査で子宮内膜厚は12mmでやや肥厚している。

現時点で最も適切な対応はどれか。

a.経過観察 b.排卵誘発 c.子宮全摘出 d.子宮内膜組織診 e.GnRHアゴニスト

 

正解:d

 

<今回の要点>

①子宮内膜はエストロゲンで増殖する

②子宮内膜腺組織が異常に増殖する病態を子宮内膜増殖症という

③子宮内膜増殖症が細胞異形を伴う場合を子宮内膜異形増殖症といい、子宮体癌に発展する可能性がある。

 

今回から3問ほど、子宮体癌関連の問題を扱います。

ということで、もう一度基本をおさらいしておきましょう。

 

子宮体部における"癌"、つまり上皮系の悪性腫瘍というのは、子宮内膜腺細胞由来です。

それしか上皮系組織はありませんからね。

子宮頸癌は扁平上皮癌が主で腺癌もたまにある、という感じでしたが、子宮体癌はほとんど腺癌だと思っていいです。

一応、腺癌以外にも扁平上皮癌・移行上皮癌・小細胞癌・未分化癌がありますが、いずれも稀です。

 

子宮内膜の腺組織は、下図のように増殖期から分泌期に移行する過程で増殖していきます。

腺以外の部分を間質といいます(この部分が悪性化したものが肉腫ですね)。

腺管の増殖が通常より亢進し、間質より腺管の占める面積の方が大きくなったものを子宮内膜増殖症といいます。

 

この状態になると、剥離する内膜が増えるので過多月経になります。

また、破綻出血を起こすこともあるので、不正性器出血として自覚されます。

 

この子宮内膜症に細胞異型が加わったものが、子宮内膜異型増殖症です。

これは、子宮体癌に発展する可能性があります

言ってみれば、子宮頸部異形成と子宮頸癌のような関係です。

 

↓これは正常な腺組織です。

点線が基底膜で、これに対して細胞は規則正しく配列しており、核は基底膜寄りに位置しています。

 

対して、↓これが子宮体癌です。

まず、間質がほとんどなくなっていて、腺管構造が大部分を占めていますね。

さらに、核が整然と並んでおらず、やたらと重層化しています。

 

 

では、ここから本文中の記載を一つ一つピックアップしていきましょう。

 

 

・不正性器出血を主訴に来院した。

 

この時点では器質性出血なのか機能性出血なのか分かりませんね。

性交後出血という記載もないので、特に誘因なく出血があるということでしょう。

 

 

・月経周期は40~45日型で不整

 

月経周期が長いですね。39日以上で希発月経に分類されますので、本症例は希発月経といえます。

この点については、第16回(PCOS)の症例と同じですね。

そして、第11回(早発閉経)で述べましたが、月経周期の延長は卵胞期の延長と考えられますので、本症例は卵胞発育が悪い何らかの素因(PCOSなど)があるものと思われます。

こういう風に、内膜が肥厚したまま剥離しない期間が長くなると、それだけ腺組織が増殖しますので、子宮内膜増殖症の原因になります。

 

 

・子宮頸がん検診は毎年受けているが異常なし

 

子宮頸癌ではないということですね。

前回の検診が5年前とかいうのなら話は別ですが、毎年受けていると書いてあります。

1年も経たないうちに不正性器出血を認めるほど子宮頸癌が進行しているとは考えにくいです。

 

 

・身長152cm、体重66kg

 

BMIが28.56ですね。25以上で肥満のカテゴリーに入るので、肥満です。

肥満は代表的な子宮体癌のリスク因子です。

子宮内膜はエストロゲンの作用で増殖します。

エストロゲンは卵胞から分泌されるE2がメインですが、脂肪細胞から分泌されるE1もあります。

肥満者はE1の分泌が多くなるので、子宮内膜の増殖もより進みます。

また、肥満はPCOSの原因にもなります(第16回参照)。

PCOSでは中途半端に発育した卵胞から、長期間にわたってダラダラとE2が分泌され続けますので、やはり子宮内膜の増殖が進みます。

本症例もこのようなパターンである可能性があります。

ただ、本症例はPCOSの診断基準3つ(月経不順/多嚢胞性卵巣/LH>FSH or テストステロン高値)のうち、月経不順しか記載がないので、実際のところPCOSかどうかは分かりません。

 

 

・血圧144/92mmg

 

140/90mmHg以上は高血圧とカテゴライズされるので、軽度ですが高血圧です。

高血圧は子宮体癌のリスク因子と言われています。

ただ、これは個人的な考えですが、前述の肥満やPCOSとは意味合いが違うと思っています。

肥満・PCOSと子宮体癌には因果関係がありますが、

高血圧と子宮体癌には因果関係はなく、相関関係しかないと思うからです。

 

つまり

「子宮体癌患者に高血圧を認める頻度が通常より高い」ことは事実ですが、「高血圧が子宮体癌の原因である」ことにはなりません。

 

「肥満の結果、高血圧にも子宮体癌にもなる」は分かります。

「長期間のストレスにより、慢性的な交感神経亢進状態になり、高血圧になった。同時にストレスによって免疫機能が低下して子宮体癌発症の一因になった」ということもあるかも知れません。

ただ、「高血圧が子宮体癌の原因になる」というのは、どうも説明がつかないのではないかと思います。

 

問題を解く上ではまったく影響しないところですが、単純にリスク因子として暗記するのはつまらないので。

 

 

・内診で子宮は正常大で可動性良好

 

まず、触診で分かるほど進行した病変はないということですね。

可動性が良好ということは、子宮が固定されるほどの周囲への浸潤や癒着がないということです。

 

 

・子宮内膜厚は12mm

 

12mmというのは、卵胞期ならやや厚め、黄体期なら普通です。

月経何日目で来院したか書いていないので分かりませんが、やや厚めと書いてあるので勝手に卵胞期と解釈します。

辺縁不整という記述もないので、そこまで強く悪性を疑う状況ではないように思えます。

子宮体癌というよりは、子宮内膜増殖症かな、という印象です。

 

 

ということで、まとめると

子宮内膜増殖もしくは子宮体癌の可能性があり、ベースにPCOSの存在を疑う

という状況です。

まあ、PCOSがどうかは、問題を解く上では関係ありませんけどね。

 

あとは子宮頸部と同じです。

悪性細胞の有無を検査して、検出されれば治療する

という流れです。

 

 

 

ではもう一度選択肢を確認します。

 

現時点で最も適切な対応はどれか。

a.経過観察 b.排卵誘発 c.子宮全摘出 d.子宮内膜組織診 e.GnRHアゴニスト

 

この中で悪性細胞の有無を検出できるのはd.子宮内膜組織診のみですので、これが正解です。

もし子宮内膜細胞診があればそれでも悪くはないですが、結局組織診をすることになる可能性が高いので、最初にしてしまった方がいいでしょう。

 

 

では、他の選択肢にもコメントしていきます。

 

a.経過観察癌の可能性もある状況なので、これはないですね。もし子宮内膜組織診で「異型のない子宮内膜増殖症」、あるいは正常子宮内膜という診断がつけば経過観察でいいですが、それを確認しないといけません。

 

b.排卵誘発もし本症例の子宮内膜が異型のない子宮内膜増殖症くらいであれば、ひとまずカウフマン療法を3周期くらい行って、その後排卵誘発剤を用いて妊娠を目指すという方針は十分にあり得ますが、やはり組織診をして確認が必要です。

 

c.子宮全摘出最終的にここに行き着く可能性はあります。子宮体癌であれば全摘せざるを得ませんので。クエスチョンバンクでは「挙児希望があるので絶対禁忌」と書いてありますが、そんなことはありません。仮に子宮体癌であれば、子宮温存できるケースは限定されます。詳細はガイドラインを参照してください。フローチャート6に書いてあります。死んでしまっては挙児希望も何もないですからね。

 

e.GnRHアゴニストGnRHアゴニストを投与すると、フレアアップでエストロゲンが急上昇するので、子宮内膜増殖症や子宮体癌を加速させてしまう恐れがあります。その後はダウンレギュレーションで一気に低下しますが、だからといって内膜が剥離するわけでもないので、何の意味もありませんね。

 

p.s. どんな臓器であっても、細胞異型が出現したら癌に発展する可能性があります。大切なのは異型が軽度なうちに発見することです。子宮頸部にしろ子宮体部にしろ、腟と交通しているので、出血という形で自覚することができます。子宮頸部に至っては、細胞診が痛くないので、検診レベルでできるわけです。これに対し、卵巣癌は外界と交通していないので厄介です。相当に大きくなって、腹壁から触れるくらいにならない限り気付きません。ただ、病院で子宮頸がん検診を受ける場合は、大抵エコーもしますので、このときに卵巣腫大がないかをチェックしています。

 

次回は「子宮体癌①」です。

(次回の問題)

106A47

63歳の女性。未経妊。血性帯下の増量を主訴に来院した。6ヶ月前から少量の褐色帯下に気付いていたという。50歳で閉経した。身長152cm、体重68kg。血液所見:赤血球430万、Hb 13.1g.dl、Ht 39%、白血球 8800、血小板 24万。免疫学所見:CA19-9 68U/ml(基準37以下)、CA125 54U/ml(基準35以下)。子宮内膜組織診で高分化型類内膜腺癌が検出された。骨盤部MRIのT2強調矢状断像を次に示す。

治療として最も適切なのはどれか。

a.子宮全摘出術 b.子宮動脈塞栓術 c.全骨盤放射線照射 d.シスプラチンの投与 e.黄体ホルモンの投与