国民民主党の正体 | ブロッギン敗北【ご愛読ありがとうございました】

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アウシュヴィッツが陸の上のジェノサイド、ヒロシマ・ナガサキが空からのジェノサイドだったとすれば、水俣病は海からのジェノサイドである。(栗原彬)
そして21世紀のいま、史上最悪のジェノサイドがパレスチナの地で、殺人国家イスラエルによって遂行されている…

 

 

 韓国での戒厳令事件を受けて,日本維新の会の馬場代表が日本でも戒厳令を出せる緊急事態条項を整備すべきだとし,「権力の暴走を止める装置」として必要なんだという倒錯した見解をSNSで披露して物議をかもしているわけだが,こういう風に維新が「第二自民党」として政府権力を強化する方向に世論を持っていこうとするのを見ても,今さら驚くにあたらない。今,警戒すべきは,維新と同様の認識で緊急事態条項の必要性を訴えている国民民主党の動きである。

 

 

 国民民主党も維新と同じく,緊急事態条項が権力者の暴走を止めるものだという誤った見方を吹聴して,世論をミスリードする。もはや国民民主党は自民党以上に自民党的な極右政党であると,私たちは認識を改めるべきだろう。だから私は前回記事で,「生存権」を持ち出して103万円の壁を引き上げようとする国民民主党の政策を欺瞞だと言ったのである。「生存権」を盾に国民の最低限度の生活を守ろうとする政党なら,国民の権利を制限する権限を政府に与える緊急事態条項には,権力の暴走を招くとして強く反対するはずだ。

 

 基礎控除を引き上げて庶民の手取りを増やすという,一見まともそうな国民民主党の主張に目をくらまされてはいけない。パートやアルバイトの目先の手取りを増やすだけで,低賃金で不安定な非正規雇用という実態は根本的には何も変わらないし,むしろああいった小手先の税制改正は,現在の不安定な雇用環境を固定化し,安定した正規雇用への道を閉ざしてしまう。非正規労働者を雇用する企業には有利だし,逆進性が強まることから富裕層にも恩恵が大きい。「生存権」を言うなら,所得税の累進性をもっと強化して,幅広く低所得者層への所得税を非課税にすべきだし,逆進性の強い消費税は廃止か,少なくとも食料品などの必需品は非課税にすべきだろう。一方,消費税増税分だけ引き下げられた法人税は当然のことながら増税すべきだし,金融所得課税も強化して1億円の壁を打破すべきだろう。

 

 とにかく国民民主党の言う「103万円の壁」緩和による減税はまやかしであり,あんな減税で「生存権」を守るというのは詭弁である。むしろ一層の貧困の蔓延と格差の拡大を招くだけであろう。さらに,憲法改正による緊急事態条項追加で「生存権」はなおざりにされる。ほかに国民民主党が公約として訴える原発新増設も安楽死法制も,「生存権」の保障からはほど遠いものばかりである。こういう国民民主党の政策を実行に移していくなら,国民の命と生活は危険にさらされる。国民民主党の眼中には「生存権」など欠片もないのである。だから「103万円の壁」引き上げの根拠として持ち出した「生存権」というのは,国民民主党の本丸の政策を覆い隠すために財務官僚出身の玉木が仕組んだ巧妙なカムフラージュだったわけである。「生存権」も「手取りを増やす」も全部詭弁であることに気づこう!

 

 こんな国民民主党が今回の衆院選で大幅に議席を増やしたという現実には愕然とする。万一,日本でも憲法に緊急事態条項が追加されて,実際に戒厳令が出されたら,韓国のように市民や野党議員が立ち上がって戒厳令に抵抗することができるだろうか。否,決してできない。済州島4・3事件や光州事件など市民の犠牲の上に築かれた韓国市民社会の民主主義とは,歴史と成熟度が全然違う。また,光州事件をモデルにした「タクシー運転手」「ソウルの春」などの映画や,ハン・ガンなどの小説が広く社会に受け容れられているという文化的状況も日本とは全く違う。悲しいかな,それが現実である。だから,日本において緊急事態条項は絶対に越えてはならない一線と言える。市民(個人)も野党も存在しない日本で戒厳令が出たら一巻の終わりだ。だから自民党や維新,国民民主が目論む憲法への緊急事態条項追加は絶対に阻止しなければならない。

 

 ところで,政治学者の白井聡さんが『情況』秋号で,日本の政党の立ち位置を記したマトリックスを提示していて興味深かった(情況 2024年 11 月号 [雑誌]p.37)。特に横軸を従来の「左/右(リベラル/保守)」から「減税/増税」に置き換えたところが面白い。「減税/増税」は「積極財政/緊縮財政」と言い換えてもよいだろう。なお,縦軸は「対米従属(グローバル化)/対米自立(反グローバル化)」となっている。これを見ると,現在,国民民主党はやや左寄り,つまり減税(積極財政)の側に位置しているが,いずれ右に寄って,自民党と同じ増税(負担増・官僚権力)の側に移行するであろうことは,国民民主党が掲げる政策全体を見渡せば明らかであろう。

 

 「対決より解決」を訴えて自民党にすり寄り,与党と一体化しようとする国民民主党に対しては,「解決より団結」をスローガンに,独立した市民が連帯して徹底「対決」しよう。それが民主主義だ・・・