ナクバは1948年よりも前に始まった!そして今も続いてる! | ブロッギン・エッセイ~自由への散策~

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アウシュヴィッツが陸の上のジェノサイド,ヒロシマ・ナガサキが空からのジェノサイドだったとすれば,水俣病は海からのジェノサイドである。(栗原彬編『証言 水俣病』)

 イスラエル軍による空爆再開とか,ガザ南部への地上侵攻とかいうニュースを聞くと,もう絶望的な気分になるのだが,なぜこういうことになるのか,今一体何が起こっているのか,を正確にとらえるためには,やはりナクバ(大災厄)とは何だったのかを改めて問うことが必要だろう。

 

 私は少し前の記事で,1948年に起こったナクバは今も終わっていないと書いた。すなわち,パレスチナでは第二,第三のナクバが断続的に起きてきて,今,史上最大規模のナクバが起きている,と。ナクバの本質は,パレスチナ人を追放・殲滅する「民族浄化」にほかならない。

 

 ただ,ナクバ(=民族浄化)の起点を1948年に置くことは,今起こっている事態に対する正確な理解を妨げるように思う。つまり,現在の事態を理解するには,ナクバは1948年よりずっと前から始まっていたという歴史認識が重要になる。私がナクバの先駆けとして重要だと思うのが,第一次世界大戦後のイギリス委任統治時代における虐殺である。1936~39年に委任統治政府に対するアラブの大蜂起が起きるが,そこで活躍した多数のリーダーがイギリス当局の手により殺害もしくは国外追放された。この期間にパレスチナ人5000人が殺害され,4万人が負傷したのである。

 

 パレスチナ分割決議が成立し,1948年にイスラエルによる攻撃や追放作戦が始まる以前に,パレスチナ社会はイギリスによってズタズタに破壊されていたのである。パレスチナに統治のリーダーや「国民」は不在であった。軍事力ではイスラエルに圧倒的な差をつけられ,イスラエルと戦って勝てるはずもなかった。要するに,イスラエルによる入植・民族浄化の先鞭をつけ、その道筋をつけたのは,近代的な国民国家イギリスだったのである。そして第二次世界大戦戦後は,中東におけるイギリスの支配力はアメリカに引き継がれ,パレスチナでのユダヤ人入植が次々と進められていく。

 

 イギリスとアメリカをはじめとする欧米諸国,そして日本も含めた近代的な国民国家が,イスラエルによる入植地の建設・拡大を背後で支えていのである。イスラエルの建国と占領地拡大という動きは,近代国家の成立・拡大の論理でもあった。数年前にフランスで「私はシャルリ」というプラカードを掲げる大規模なデモがあったが,欧米日の国家は「私はイスラエル」というプラカードを陰で掲げているように私には思える。国民国家・民族国家として自らをイスラエルと一体化しているのである。それゆえ,欧米諸国や日本はイスラエルの占領地拡大と民族浄化を表立って非難できない。イスラエルという国家をめぐる問題というのは,国民国家の限界を露呈しているように見える。イスラエルの国家建設と民族浄化,土地収奪を,国際人道法に照らして非難はできても,国民国家の論理に立つ限り,イスラエルの行動を根本的に批判できない。イスラエルは,かつての自分自身の姿だからである。

 

 敵はユダヤ人ではない。打倒すべきは,ユダヤ人国家を建設しようとするシオニズム(運動・イデオロギー)であり,イスラエルという国家なのだ。しかし,イスラエルが悪いと指摘するだけでは済まないだろう。ナクバへと至る時間の中で,欧米日の国民国家が何をやったかを改めて問わなければならない。1948年よりも前の時代に遡ることで,近代国家の罪と責任が見えてくる。すなわち,欧米日の国民国家の正体は「イスラエル」であり,植民地主義国家なのである。

 

 こうした近代国家による不公正で残虐な支配に対して,パレスチナ人は何もなしえずに,植民地主義の犠牲者として土地から追放されたわけではない。組織化されず,たいした軍事力も持たないために,無残な敗北に終わったけれども,植民地主義国家に対する抵抗の精神は途絶えず,今日まで引き継がれている。イラン・パペ『パレスチナの民族浄化』の訳者で,パレスチナ文化研究者である田浪亜央江さんは,こう指摘している。

 

ガリラヤ(パレスチナ北部地域)では多くの村で,住民たちが抵抗のために武器を入手しようとしてダマスカスやベイルートに向かったことや,塹壕や要塞を作って村を防衛しようとしたことへの証言が残されている。

現代思想 2018年5月号 特集=パレスチナーイスラエル問題 ―暴力と分断の70年―p.124

 

 パレスチナ民衆は,植民地主義国家による民族浄化に抵抗して主体的に生きようとした。それは今も続いている。歴史の中のパレスチナ民衆は,私たちが今,何と闘わなければならないかを教えてくれている…

 

(大石あきこ)アメリカの二枚舌の正義があなた方の正義なんですか。それならば二度と正義を語るな!国際社会は共犯なんです!