「重信メイ,パレスチナを語る」 | ブロッギン・エッセイ~自由への散策~

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アウシュヴィッツが陸の上のジェノサイド,ヒロシマ・ナガサキが空からのジェノサイドだったとすれば,水俣病は海からのジェノサイドである。(栗原彬編『証言 水俣病』)



 おとといは予定通り「パレスチナ国際連帯フェスティバル・大阪」に行ってきたのだが,慣れない電車での大阪日帰りは思った以上に身体に堪(こた)え,昨日は疲れ切ってブログを書く気も起こらなかった。なんだか情けない話だが,ともあれ重信さんは非常に重要なことを話していたので,ここに記録しておかねばならない。

 川口真由美さんやMC GAZAのライブの後,会場が盛り上がっている中で,重信さんは努めて冷静にパレスチナの現状や中東地域の問題点などを話した。もちろんパレスチナ難民へのシンパシーやイスラエル=米国政府への怒りは胸奥に秘めているが,ジャーナリストらしく冷静で理性的な分析・論理が最後まで印象に残る講演だった。

 昨年「土地の日」(3月30日)にパレスチナ・ガザの民衆が始めたグレートリターンマーチ(帰還の大行進)は,パレスチナ全土に広がり,今も毎週金曜日に続けられているが,しかしながら同時に,イスラエル警察と軍が非武装で行進をする民衆に銃を向け,多大な犠牲が出ているのだという。特に,行進をできなくするために足を撃たれて負傷したり切断したりした若者が1700人にも上るという話に衝撃を受けた。

 そういうイスラエルによる弾圧・暴力と同時に,重信さんが批判の矛先を向けたのが,イスラエルの背後にいる米国である。なかでも,米国大統領上級顧問ジャレッド・クシュナー(トランプの娘婿であり,ネタニヤフの友人でもある)の中東和平案に対して,重信さんはかなり時間を割いて批判していたが,そこには非常に重要な論点があった。



 重信さんの批判のポイントは,クシュナー=トランプの和平案が経済分野だけでパレスチナ問題を解決しようと企んでいる,という点であった。つまり米国側の目的は,パレスチナを絶対に政治的に独立させないことなのである。そのために民間投資を中心に500億ドル(5兆円超)もの経済援助をし,(イスラエル入植地の邪魔にならないように限定的に)インフラを整え,ビジネスを盛んにして,パレスチナを今よりは経済的に繁栄させる。その代わり,パレスチナの政治的独立や最終的平和交渉への道を閉ざす――こういう道筋を米国側は描いている。

 この前例のないパレスチナへの大規模投資は,石油資源の豊富なサウディアラビアなどの親米アラブ諸国の資本も動員して行われると思われるが,そこには,中東でのイスラエルのプレゼンスを高めるとともに,イランを孤立させようという米国の中東戦略があることは言うまでもない。

 前回書いたパレスチナ問題の発端をなした100年前の第一次大戦時との違いは,当時英仏が中東で握っていた覇権が米国に移ったということだが,西側先進国が帝国主義的に介入して中東の民衆運動(民族主義運動やイスラム主義運動)を潰すという構造は変わっていない。シリア内戦にしてもイエメン内戦にしても,政権を巡る抗争に周辺国や欧米諸国が介入して代理戦争と化し,新冷戦的な様相を帯びている。今はサウディアラビアとイランという中東の二大大国を両極にして,冷戦的な対立構造が再生産されている状況と言えよう。

 重信さんの話は,こういう対立構造や民衆運動の分断が未だに続いていることを教えてくれる。特にクシュナーのパレスチナ和平案には,帝国主義とグローバル資本の論理が鮮明に表れていると言えよう。米国はユダヤ資本だけでなくアラブ資本もバックにして,パレスチナ人を分断・支配し,その帰国権と民族的独立・国家建設を奪おうとしているわけである。

 こういう形のパレスチナへの大規模投資がパレスチナ問題の解決をますます困難にするのは明らかではないか。いわばパレスチナ人を買収して,民族的なアイデンティティや政治的な独立を奪おうとしているわけであろう。恥知らずな解決策というよりほかない。結局,何の解決にもならず,パレスチナとイスラエル=米国との対立をますます深めるだけだろう。

 重信さんの話からは,グローバル資本によるパレスチナの蚕食・抹殺という重大な事態,論点を学ぶことができた。そして,100年前に定まった帝国主義的支配の構造は今も何ら解消されていないことも確認できた。その他,シリア内戦によって「二重難民」になったパレスチナ難民のことやレバノンの大規模デモのことなども重信さんは話してくれた。

 こうして重信さんは,パレスチナと人類の敵がどこにいるのか(米国とイスラエル!)を明らかにしてくれたわけだが,その眼から見れば,トランプに追従しイスラエル化する日本も同断であろう。繰り返しになるが,闘志を内に秘めたジャーナリスト重信メイの実に冷静で確かな観察眼が光る講演だった…。