私たちは「黒塗り」社会とどう闘えばいいのか | ブロッギン敗北【ご愛読ありがとうございました】

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アウシュヴィッツが陸の上のジェノサイド、ヒロシマ・ナガサキが空からのジェノサイドだったとすれば、水俣病は海からのジェノサイドである。(栗原彬)
そして21世紀のいま、史上最悪のジェノサイドがパレスチナの地で、殺人国家イスラエルによって遂行されている…

 ここのところ噴出している公文書の改ざん・隠蔽などの問題について,注意して見ておかなければいけないと私が思うのは,こういう国家行政機関による情報隠し・情報統制というのは今,知る権利や情報公開法の理念とは逆行して,私たちの社会の末端に至るさまざまなところに行き渡っているということである。

 先日,私は愛知県警機動隊の沖縄高江派遣訴訟の岩月弁護士から次のような報告を聞いて,その確信を深めた。すなわち,愛知県警機動隊派遣をめぐる情報公開請求で県警本部から開示された書類がほとんどが「黒塗り」であったということ,そして現在は,非開示処分の取り消しを求めて審査請求を行っている最中だということだった。

 派遣期間とか派遣人数,それに派遣に要した費用も全部が黒塗り。税金を納めている住民が一番知りたいこと,知って当然のことが開示されないのである。一体これはどういうことか。

 県警本部が挙げる理由の大きなものは,テロの恐れだという。高江への機動隊派遣の規模や期間,金額などが明らかになると,テロ組織に研究され,テロ攻撃を受ける可能性があるのだという。強力な実力組織である機動隊に対してテロ組織が攻撃を仕掛けるというのだろうか。それとも沖縄でテロを起こすというのだろうか。何ともバカバカしい想定に警察の良識を疑ってしまうが,では,派遣にかかった金額まで開示できない理由は何なのか。派遣の予算をテロ組織が研究して,何をするというのだろう。テロリストたちがオンブズマンみたいに予算の使い方をチェックしてくれるのだろうか。それなら結構なことではないか。

 こういう県警による非開示理由の説明を聞いていると,テロという想定が非現実的で妄想に基づいたバカバカしいものであることは言うまでもないのだが,それと同時に,警察側は機動隊派遣に反対する私たち市民・住民をテロリストとして想定しているんじゃないかと思えてきた。「抵抗市民=テロリスト」という等式を成り立たせれば,妄想に思えるバカバカしい理由づけも一応筋が通る。つまり,私たちテロリストには行政情報は一切開示できないということになる。機動隊派遣に反対する私たちは,税金を納める善良な市民ではなくて,まずはテロリストという烙印を押されるのである。このような「市民=テロリスト」という想定の下では,いかなる情報も非開示=「黒塗り」にできるわけだ。

 「のり弁」のような開示文書がまかり通る「黒塗り」社会において,私たちは行政権力からはテロリストと認定され,もはやテロリストとして生きていくほかなくなる。では,テロリストとしてこの「黒塗り」社会とどう闘っていけばいいのか。それは「国家の暴力」との闘いでもある。

 市民をテロリストにでっち上げてまで県警・行政が守ろうとしているものは何か。それは警察権力であり,それに基づいた国家権力である。県警本部が情報を開示しないのも,機動隊派遣の違法性を認識しているからであり,万一違法性が裁判で認定されれば,県に損害賠償が科せられるだけでなく,「国家の暴力」も同時に露呈してしまうことになる。だから絶対に情報は開示できない。つまり黒塗りは「国家の暴力」を隠蔽するための情報統制なのである。テロリストとして私たちは,何としてもその黒塗りを引っ剥がし,「国家の暴力」を暴かなくてはならない。

 黒塗り社会は,市民をテロリストと認定することでその知る権利や抵抗権を奪い,国家の暴力を正当化する社会である。そして,その国家暴力は沖縄で先行し,基地建設に反対する市民に牙を剥いている...。

 建設に抗議する市民に,政府は本土の機動隊約500人を派遣。排除のため,むき出しの暴力が市民に牙をむく。記者の目に映ったのは,この国の危機の縮図であり,明日の本土の姿だった。
 (阿部岳『ルポ沖縄 国家の暴力』朝日新聞出版より)


 2016年7月22日,沖縄高江で何があったのかを,原告の松本八重子さんが報告してくれているので,下に載せておきます(「沖縄高江への愛知県警機動隊派遣違法訴訟の会News,No.4」)。機動隊による凄まじい国家暴力が伝わってくる。