米・キューバ首脳会談へ | ブロッギン敗北【ご愛読ありがとうございました】

ブロッギン敗北【ご愛読ありがとうございました】

アウシュヴィッツが陸の上のジェノサイド、ヒロシマ・ナガサキが空からのジェノサイドだったとすれば、水俣病は海からのジェノサイドである。(栗原彬)
そして21世紀のいま、史上最悪のジェノサイドがパレスチナの地で、殺人国家イスラエルによって遂行されている…


 明日の締め切りが差し迫っていてヤバイのですが,この歴史的転機を示す出来事についてひと言だけでも書いておきたいと思い,ブログに向かいます。昨年末,米・キューバ国交交渉開始のニュースを聞いた後,三好徹さんの『チェ・ゲバラ伝』を読み直し,カストロ,ゲバラらによるキューバ革命のプロセスを再度つぶさにフォローしていただけに,弟のラウルが世界の表舞台でアメリカ大統領と握手している姿を見ると,まさかこんな日がくるとはという驚きとともに,時の移ろい,時代の変化に感慨も覚えます。

 アメリカの思惑が,反米キューバ政権の転覆や中南米支配にあることは見え透いているのですが,それでも私はこの出来事を歓迎したいと思います。今やアメリカの対キューバ経済制裁を解除すべきだというのは国際世論であり,解除に反対しているのはアメリカとイスラエルだけになっています。だから制裁解除によってキューバ経済が成長すれば,国民も貧困から脱出して生活も向上してくるでしょう。もともと平等な社会で,弱者への保護も手厚い国ですから,もっと良い国になるのではないかと思います。

 キューバが親日国であることはよく知られています。ゲバラも革命直後に日本に来て広島を訪問するくらいですし,カストロ前議長もそうです。国民も子どもから大人まで日本のことをよく知っています。だから日本もキューバの経済復興を支援していってほしいと思います。アメリカは快く思わないでしょうが,同じく米軍基地を抱え,アメリカに主権を侵されている国として共同戦線を張って,アメリカ支配に抵抗していくべきでしょう。昔このブログで,ゲバラが日本訪問直後に書いた「原爆の悲劇から立ち直る日本」という文章を紹介したことがありますが,そこには日本人への愛あるエールと,アメリカ人への激しい憤りが込められていたように思います。今度は日本人がキューバの経済的な窮状を鑑みて,国民の生活が少しでも豊かになるように支援していくべきではないでしょうか。キューバは資源は少ないけれども,生来の楽天的性格に加えて教育水準が高く優秀な労働者が多いから,開放政策によって必ず経済を再生させて自立していくと思います。

 ところで前にも書いたように,経済制裁解除が国交回復の前提になっているのは確かですが,制裁解除がなされたからといって国交正常化がうまく進むとは限りません。今回も大使館の設置が遅れていますが,なぜなのでしょう。私は,アメリカが内政干渉的な態度を改めない限り,国交正常化交渉は難航すると思います。加えてグアンタナモ基地の返還問題もあります。一筋縄ではいかないでしょうね,残念ながら。そこで国際社会の支援が必要になってきます。キューバの反体制派を支援するなど,アメリカがキューバに対してやっていることは明らかに内政干渉であり,国家主権・民族自決権を侵すものです。だから今後は,国際社会が米・キューバ交渉をきびしく監視し,アメリカの勝手にさせないことが大切です。国交交渉の国際法的原則は,平和五原則(領土保全及び主権の相互尊重・相互不可侵・内政不干渉・平等互恵・平和的共存)でしょう。あくまでこの原則に則って交渉を進めていくべきです。その点からすれば,グアンタナモ基地の返還も当然議題に上せるべきでしょう。前にも書きましたが,この米・キューバ国交交渉は,米州大陸全体の平和構築にとって重要な意味を持つし,場合によってはアメリカのユニラテラリズム,一国主義に歯止めをかける契機ともなって,国際政治や世界平和にとっても大きな転換点になり得る可能性があると思います。あまり期待をかけ過ぎると,うまく行かなかったときのショックが恐いですが,ともかくそういう可能性を感じながら,多少の期待を抱いて,この交渉の行方を注目していきたいと思います。


 現在でも,キューバは日本から農,工業の機械その他を買いたがっているが,日本はアメリカに義理立てして,キューバの欲しているものはほとんど何も売っていない。イギリスもフランスもカナダもどしどし売っているのに,日本は冷淡そのものである。にもかかわらず,カストロ自身は依然として日本が好きで,東京オリンピックのときは,来日しようとして,果たさなかった。
  (三好徹『チェ・ゲバラ伝』原書房p.183)



 かれ(フィデル・カストロ)は,バチスタの悪を告発し,キューバの解放を訴え,最後にこういった。
 「わたしを断罪せよ。それは問題ではない。歴史はわたしに無罪を宣告するだろう!

  (前掲書p.83~p.84)


〔付記〕
 先般は,来年改訂される中学の歴史教科書における領土問題の記述のことが問題になっていましたが,長いこと教科書関係の仕事をしてきた身として言うと,それだけでなく,ほかにもいろいろと気になることがあります。今日の記事との関連で言えば,周恩来とネルーが1954年に発表した「平和五原則」が10年くらい前の中学教科書から消えました。それに伴い,バンドン会議での「平和十原則」も消えています。戦後史や国際政治を学ぶ上で重要なプリンシプルだと思うのですが,なんで消えてしまったのでしょう。私はあまり陰謀論は好きではありませんが,冷戦後アメリカの単独行動的な外交姿勢を見ていると,日本政府の意向というよりはアメリカからの圧力ではないかとも勘繰ってしまいます。それが事実かどうかはともかく,アメリカが平和五原則を認めたくないというのは本音でしょう。