ジョーン・ロビンソン「マルクス経済学についてのエッセイ」(1) | ブロッギン敗北【ご愛読ありがとうございました】

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アウシュヴィッツが陸の上のジェノサイド、ヒロシマ・ナガサキが空からのジェノサイドだったとすれば、水俣病は海からのジェノサイドである。(栗原彬)
そして21世紀のいま、史上最悪のジェノサイドがパレスチナの地で、殺人国家イスラエルによって遂行されている…


 ケインジアン左派の経済学者である故ジョーン・ロビンソン女史の『マルクス経済学についてのエッセイ』(1951年)という小さな英書を久しぶりに読み返していたところ,先日私が書いた新自由主義批判といくつかの点で重なり,同感するところも少なくなかったので,ここに翻訳して紹介するとともに自分のノートとしても残しておこうと思った。これは学生時代に英語の勉強もかねて読んだもので,全く記憶には残っていなかったのだが,自然と影響を受けていたのかもしれない。

 ロビンソンは当時,ノーベル経済学賞の有力候補であったが,これを書いたがために受賞できなかったという曰く付きの著作がこれで,いわゆるケインズ経済学とマルクス経済学との対決・交流,というかケインズ経済学によるマルクス経済学の摂取という古くも果たされていない視点から見て非常に重要な業績に思えた。ロビンソン以後,このような方向で経済学が本格的に展開されてこなかったことがとても残念に思うのである。

 こんな本は今ではほとんど顧みられていないだろうが,20世紀経済学の忘れられた遺産としてここに,一般の読者にも比較的解りやすい「第1章 序論」を何回かに分けて紹介してみる(拙訳,括弧内は私の補足)。ロビンソンの文章は含蓄に富んでいていてさすがに手強いが,真意を伝えるためできるだけ原文に忠実に訳してみる。


 第1章 序論

 マルクス経済学と伝統的な正統派経済学(新古典派経済学)との基本的な相違は,第一に,正統派経済学者が資本主義体制を永遠の自然的秩序の一部として理解しているのに対して,マルクスはそれを過去の封建経済から未来の社会主義経済への移行の過渡的段階と捉えている,という点である。そして第二に,正統派経済学者が社会のさまざまな部門の間の利害の調和をという見地から論じているのに対して,マルクスは何の仕事もしない財産所有者と何の財産も所有しない労働者との間の利害の対立という観点から経済活動を考えている,という点である。これら2つの相違点は,関連がないわけではない。――なぜなら,もし資本主義体制が前提とされ,社会の総生産物のさまざまな階級への分配が,動かし得ない自然法則によって決定されるとするならば,すべての利害関係者は,分配される総生産物の増加を要求する点で一致するからである。しかし,もしその体制を変更する可能性が一旦認められたならば,その変更によって利益を得ることを望む人たちと損失を被ることを恐れる人たちが直ちに相対立する陣営に入れられてしまうからである。

 正統派経済学者は概してその資本主義体制と一心同体の立場から,その擁護者の役割を引き受けたのに対して,マルクスは,資本主義の滅亡を早めるためにそのしくみを理解しようと努めた。マルクスは自分の目的をちゃんと意識していた。正統派経済学者は一般に自分たちの目的をはっきりとは意識していなかった。彼らは,それが唯一の記述方法と思われたからそうしたのであり,そして科学的な公正さを授けられていると信じこんでいた。彼らの先入観は,明白な政治的教義の中にではなく,むしろ彼らが研究対象として選んだ問題や彼らがとった仮定の中に現れている。

 彼ら(正統派経済学者)は自分たちが永久の原理を追究していると信じていたため,現実の状況の特殊歴史的な特質にほとんど注意を払わなかった。特に,小規模で平等な財産所有者の社会に関する経済学を,発展した資本主義の分析に適用しようとしたのである。したがって正統派の競争に関する概念には,それぞれの市場における各商品が,公然の共謀にも無意識の階級的忠誠にも縛られず個人主義的に行動する多数の生産者によって供給されているということを必然的に伴っている。言い換えると,いかなる個人であっても,彼が望むどんな活動分野にでも入ることができるということを含意しているのである。そして,そのような社会から引き出される諸法則が,近代の産業や金融に適用されるのである。

 また,労働の限界負効用と等しくなる傾向を持つ正統派の賃金概念は,ある農夫が夕方,くわにもたれかかりながら,あと1時間の労働によって得られる余分の生産物が余分の腰痛に対する報償になるかどうかについて決断している絵にその源泉を持っており,そういう賃金概念が,働くのがよいか飢えるのがよいかのどちらか以外,個人の労働者は何の決断をする機会も持たない近代の労働市場に投影されるのである。


ブロッギン・エッセイ~自由への散策~


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