経管栄養は終末医療なのか?~ジャーナリズム批判~ | ブロッギン敗北【ご愛読ありがとうございました】

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アウシュヴィッツが陸の上のジェノサイド、ヒロシマ・ナガサキが空からのジェノサイドだったとすれば、水俣病は海からのジェノサイドである。(栗原彬)
そして21世紀のいま、史上最悪のジェノサイドがパレスチナの地で、殺人国家イスラエルによって遂行されている…


 前回ブログの最後に,図らずもちょっとしたジャーナリズム批判めいたことを書いてしまったが,今回はそれを少し本格的に書いてみたい。およそ1ヶ月前の中日新聞に,それまでの連載「看取りビジネス」というシリーズに対する読者からの反響を紹介する特集記事があった。「「最期」現場も悩む」といった見出しの下,病院や介護施設から追い出され,行き場を失った高齢者の受け皿として急増する「寝たきり専用賃貸住宅」について多くの意見・感想を紹介していた。この「寝たきり専用賃貸住宅」では,医師が出す訪問看護特別指示書を利用して法外な保険請求が繰り返されているらしい。

 この「寝たきり専用賃貸住宅」も多くの問題を抱えているようだが,今日はその「寝たきり住宅」を問題にしたいのではない。読者の間で意見が割れていたのは,いわゆる延命治療に関してであった。すなわち,口から普通の食事をとれなくなった高齢者に対して経管栄養や胃ろう注)をやってまで生きながらえさせることの,是非である。そして,経管栄養や胃ろうで長生きすればするほど,病院や施設からは敬遠され,こういった民間の賃貸住宅に頼らざるを得なくなる。そこにビジネスが成り立つ背景があった。

 今日はこのビジネスの是非については立ち入らない。延命治療についてのマスコミの取り上げ方に違和感を抱き,異論を唱えたいと思った。この記事には,「経管栄養(胃ろうも含めて)は延命治療である」という新聞社側の先入観というか前提があって,その上で読者の意見なども紹介されている。こうした「経管栄養=延命治療」という観念は,ある意味,常識的・一般的なものであり,一概にマスコミだけに責任を帰して済む問題ではないが,世論へのマスコミの影響力を考えれば,まずはマスコミやジャーナリズムが経管栄養についての考え方や取り上げ方を改めていかなければならないと思う。

 新聞によると,死か延命かと選択を迫られれば,家族の心情としては延命を選ばざるを得ない。そこで経管栄養や胃ろうによって延命する道を選ぶ家族が多くいた。しかし,こうした経管栄養による延命治療に対して疑問を抱く人たちも少なくなかった。寿命が尽きようとする人に強制的に栄養補給して生きながらえさせることは不自然だ,という意見も紹介されていた。他方,経管栄養による延命に感謝する家族の声もあって,賛否両論だった。

 さて,このような読者からの投書や新聞の解説を読む限り,経管栄養という治療行為がいかにも延命のためだけに行われるものであり,非常にネガティブで終末期的なイメージを読む者に植えつける。確かに経管栄養は多く高齢者の延命に使われることは事実であるが,それだけではない。

 難病といわれて久しいクローン病の患者にとって,経管栄養(および胃ろう)は主要な治療手段であり,厚生労働省の治療ガイドラインにもそう明記されている。主に小腸・大腸に原因不明の炎症を起こすクローン病は今のところ根治療法がないため,経管栄養によって寛解(炎症が収まった状態)を保つことに治療の主眼が置かれている。患者は食欲はあるが,普通の食事をとっていけば,徐々に小腸・大腸の機能が侵され,さまざまな合併症を発症し,手術を施行することも多い。特に小腸は栄養を吸収する器官であるため,狭窄や瘻孔があっても手術を繰り返すことはできず,生活が大変になる。そんな厄介なクローンに威力を発揮するのが,経管栄養による栄養補給だ。エレンタールという全消化態栄養剤が用いられるが,それは腸にほとんど負担をかけずに栄養を吸収できる。私は手術後,約12~3年,経管栄養を行っていて,何とか寛解状態を保てている。私たちにとって経管栄養は病気を良くし,できれば治すための治療として行っている。命をつなぎ,死を先延ばしするするためだけの延命治療とは,決して考えていない。確かに延命という側面がないとは言えない。経管栄養をやらないで普通に食事をとっていけば,いずれは病気が悪くなり,小腸を何度も切除し,死ぬことになる。病気が悪くなるのを先延ばししているとも言えるからだ。だが,いわゆる生活習慣病の治療でも同じことが言えるだろう。高血圧や糖尿病などはけっして完治はしないから,上手く病気と付き合って,コントロールしていくというのが治療の基本である。それを延命治療と言うだろうか。クローン病の場合,メインの治療法が薬や注射ではなく,たまたま経管栄養であるということの違いだけなのだ。

 クローン病は比較的若い年代で発症することが多く,彼らも多くが経管栄養を行っているが,それが延命行為と言えるだろうか。特に若い患者にとっては辛い治療であり,絶食を伴えば,もっと辛くストレスがたまり,生きていくことに疑問を感じることもある。だが,病気が良くなって,健康になるために,希望をもって毎日,経管栄養をやっているはずだ。そんな経管栄養を単に延命治療とひとくくりにされれば,ちょっと実態は違うと患者なら誰もが言いたくなる。

 確かに私たちにとっても経管栄養は根治治療ではないので,継続していくには,かなりの忍耐や強い意志,周りの理解・協力などが必要となる。さらに過酷な食事制限や絶食も伴うから,なおさらだ。老衰によって食欲もなく,食事がとれなくなったから経管栄養をやる,というのではない。あくまで病気の治療として経管栄養をやり,食事制限もやる。いずれ病気が完治し,普通に食べられる日が来ることを願って。だが,特に若い患者さんは経管栄養を途中で挫折し,普通食を食べていくうちに悪化し,取り返しのつかないことになることが多い。経管栄養は植物的に生かされている感覚になるが,けっして延命とは考えず,新しい治療法が開発されるまでの,時間稼ぎとみて,前向きに治療していってくれることを願う。

 その新しい治療法であるが,クローン病の人たちならすでに知っていると思うが,レミケードという治療が数年前から日本でも解禁された。4週間おきぐらいに一度点滴をうつだけの,比較的患者の負担が少ない治療法で,劇的な効果もあるが,その適用になる患者が限定されている。私のように,手術後すでに何度も再発・寛解を繰り返し,狭窄部分が繊維化・角質化してしまったケースでは,レミケードはその狭窄を悪化させる恐れがあるため,適用にはならない。さらに,副作用の問題や,高額医療である点など,まだ根本的治療とは言い難い。しばらくは経管栄養による治療が中心となる。

 もう一つ付け加えておくならば,クローン患者にとって経管栄養も大変だが,それと同じかそれ以上に食事制限も辛い。食べるという人間として当たり前の行為が制限されるだけでなく,同時に人との付き合いも大きく制限される。人間関係・社会関係において,さまざまな齟齬や誤解,支障が生じてくることは,経験でしか分からないものだ。私も今回の絶食は4年近くになるが,その間も多くの人を傷つけ,それによってまた自分も落ち込んだ。以前,友人に自分がクローンの重症ということを言えなかったがために,毎日のように美味しい料理を作ってくれたことがあり,一生懸命食べたが,普通の人のようにはちゃんと食べられず,あのときほど健康になりたいと思ったことはなかった。たぶん今後あんなにたくさん美味しい手料理を食べることはないと思うから,一生忘れられない食事であった。また,付き合いで数人で居酒屋に行き,お茶だけ飲んでいたら,店長から「何しに来たんだ」と嫌みを言われたことも。最近は,自分は絶食中で,毎日母親に糖尿病食を用意しているにもかかわらず,それに文句を付ける母親に「贅沢を言うな。食べられるだけでも有り難いと思え」と怒鳴りつけてしまったこともあった。その他,あまり楽しい思いはないが,最近は唯一の楽しみとして1ヶ月に1回位,友人と普通に食事をとることにしている。毎日欠かさず経管栄養2000kcalやっているから,それ位なら大丈夫だろうと思ってのことだが,それで悪くなったら仕方がない。そういう楽しみがなければ経管栄養は長続きできないだろうし,そうなった方がまずいと思うからだ。

 今日は珍しく,情緒的な思いも書き交えつつも,とにかくも,経管栄養が延命のためだけに行われるものだという誤った観念を,マスコミやジャーナリズムが助長することがあってはならないと考え,意を決してキーボードを打った。ジャーナリズムは,獲物を狙って大空を翔る鷹の眼をもって,常に権力や体制に対して批判的であってほしいし,また逆に,地を這う蟻の眼をもって,弱者や少数派の代弁者・味方であってほしい。声なき声を聞き,姿なき姿を見て,社会に発していってほしいと願う。それはジャーナリズムの一つの,しかし大きな役割なのだから。


注)
口から十分に栄養が取れない患者さんのために、内視鏡(胃カメラ)を使っておなかの壁と胃の壁を通して小さな穴を造るが,この小さな穴のことを胃瘻( いろう )という。その穴にチューブを通して栄養を摂取する。この胃ろう手術は5~10分で行われ,クローン病患者でも,夜間に経管栄養をやっている時間がない人は,胃ろうを造設して,そこからエレンタールを摂取すると短時間で済む。


 

    時として
    君を思へば
    安かりし心にはかに騒ぐかなしさ


    何となく明日はよき事あるごとく
    思ふ心を
    叱りて眠る。


    新しきからだを欲しと思ひけり,
     手術の傷の
     痕を撫でつつ


                    by TAKUBOKU

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①Michael Jackson「This Is It」←昨日はマイケルの命日。Rest In Peace...


②MACY GRAY「BEAUTY IN THE WORLD」←メイシーさんのニューソング。このゆる~い感じがとってもGOOD!!




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