ドクヘリ!
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大好きなあなたへ

健人さん(45)は土木関係の仕事でいつも長期間留守をする。今回は山間部でのトンネル工事に来ていた。遠洋漁業の漁師と同じでいつも家を空けるため、妻の由美子(43)さんが留守を守っている。離れ離れの生活も長くなり、夫婦はたまに帰るときに二言三言会話をする程度だった。


事故は突然起きた。雨天続きで作業中の斜面の土砂崩れが起きてしまったのだ。

巻き込まれたのは2人。幸い一人はすぐに見つけ出され、軽症であった。

彼は「一緒に作業をしていたはずの健人さんがいない」と叫んだ。


健人さんは2時間のちに発見された。意識はもうろうとしているが、脈はしっかりしている!

ドクターヘリの出動となった。


ドクターヘリも現場直近には近づけない。救急車とランデブーポイントで合流。

「わかりますか?」かすかにうなずきがある。

診察で血圧や呼吸は幸いにも大事に至っていないようだ。

しかし・・・右足は不全断裂、脈は触れず、すでに赤黒く変色している・・・

一刻も早く病院へとヘリは飛び立った。


病院到着、全身診察後ただちに検査へ。

結果、頭部外傷、肺挫傷、右下腿不全断裂、粉砕骨折および挫滅。

脳と肺の損傷は経過観察でよさそうだ。ただし、意識は依然もうろうとしている。

整形外科に至急の治療を依頼する。

レントゲンを見て、足の状態を診察して、整形外科医は沈痛な表情になった。

「家族を呼んでください。」


家族はそれから遅れること30分で到着した。

妻、由美子さんに整形外科医は説明した。

「足は残せないと思います。」

突然のことに由美子さんは絶句した。

しかし、さすがに普段家を一人で守っているだけの強さをもって、言った。

「命は助かりますよね。」


健人さんは由美子さんに見送られ、緊急手術へと運ばれていった。


(つづく)



おじいちゃん

優三さん(73)は、孫の勇人くん(6)と一緒に防波堤を散歩していた。勇人くんはわりと歳をとってから生まれた初孫で、とてもかわいがっていた。

この日も勇人くんの「お魚がみたい」という希望をかなえてあげようと、家から少し離れた防波堤までやってきた。防波堤の脇にはテトラポットがあり、のぞきこむと小さな生き物たちが発見できた。

勇人くんはお魚そっちのけでのぞきこんでいたが、そのうちおばあちゃんに買ってもらったお気に入りの帽子をテトラポットの間に落としてしまった。

優三さんは「どらおじいちゃんがとってやる」と手をのばしたが、思いのほか距離があり、そのまま頭から転落してしまった・・・

意識を失った顔面血だらけのおじいちゃんをみた勇人くんは、恐ろしさのあまり立ちすくんでしまい、泣き出した。ひとしきり泣いた後、学校で習った「怪我をした人をみたら、119番ですよ」を思い出した。けれども携帯電話も持たず、涙ぐみながら一生懸命走った。「誰か助けてくださーい、おじいちゃんを助けてくださーい。」

 その声を聞きつけた釣り人が急いで119番、優三さんの様子を伝えた。「顔面血だらけで意識がありません。」

救急隊は覚知の段階でドクターヘリ要請を決めた。


ドクターヘリは現場近くの上空に到着したが、直近のランデブーポイントまでは距離があり、救急隊もまだ優三さんを救出できていなかった。

防波堤上に降りるスペースはなく、港に着陸、ドクターとナースは防波堤を全力疾走で優三さんの元へ向かった。

ドクター接触時、優三さんは防波堤の上に横たわり、意識を取り戻していた。

幸い気道は開通、呼吸も今のところしっかりしている。目立った出血は顔面だけのようだ。意識レベルGCS(3.4.6)なんとかなりそうだ。

至急救急車内へ収容、処置後ドクターヘリへ。へりは直ちに病院へ向かった。


病院到着後診察の結果、外傷性クモ膜下出血、脳挫傷、外傷性硬膜下血腫、眼窩底骨折の診断となった。相変わらず意識レベルの低下もなく、バイタルも安定している。経過観察でICU入院となったとたん、状態は急変する。レベルダウン、よくみるとわずかに瞳孔不同が出現しつつあるか。

すぐに気管内挿管、緊急手術となった。


優三さんは術後しばらく意識の回復がみられなかったが、毎日の家族の面会、励ましで再び目を覚ました。

のちに本人に聞くと、「おじいちゃん」と呼ぶ勇人くんの声が聞こえたそうだ。


もしあのときドクターヘリ要請がなかったら、もう少し病院到着が遅れていたら、優三さんが勇人くんと話せるようになることは二度となかったかもしれない。

EC135

EC135はユーロコプター式EC135型といって、ドイツ製の、「フェネストロン」を特徴とするヘリコプターだ。

フェネストロンとは、従来のブレード型のテールローターと違い、テールローターが尾翼内に埋め込まれたような形をしている。

重さ約3tで、速度120ktで飛ぶ。

主にヨーロッパで使用されているタイプで、外見が結構スマート。

今国内で使用されているドクターヘリのタイプの中では、僕は一番気に入っている。

まあ、そんなことはどうでもいいのだけれど。


ここまで書くと、やや航空機オタクの気配が漂ってくるが、実は僕は航空物理学者を目指したことがある。

それから、よくあるタイプかもしれないが、宇宙飛行士になりたくて、宇宙飛行士になった医者にあこがれて医者をめざしたこともある。(もちろん、医者をめざした本当の理由はちゃんとあって、これは自分の胸にしまっておこうと思う。)


医者になって、なおかつヘリコプターに乗って仕事ができるというのは、若かりしころの夢を両方かなえたようなものだなぁと思う。

でも・・・現実はそんなに甘くもなく。


ドクヘリの後方部隊としてもっとも関わるのは、外傷である。

「防ぎえた死」を少しでも減らすために、適切な初期診断・初期治療は不可欠である。

ドクヘリ出動の結果、防ぎえた死から一つの命を救えたら、これは醍醐味である。


でも最近、救えたかもしれないひとつの命を救えずに、しばらく立ち直れないことがあった。

ドクターヘリ要請はなかった症例だが、結果としてうちに運び込まれたときには受傷からかかなりの時間が経過し、手に負えない状態になっていた。ヘリで迎えにいっていたら、いまごろその方と話ができていたのかもしれない。

「あのときこうしていたら・・・」ほど医者にとって悔しいものはない。


ということで、ドクターヘリがもっと身近な存在になったらいいと思う。

諸外国のように、救急車がわりにEC135が市街地に降り立つほど、身近な存在になれたら。