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週刊ダイヤモンド http://www.dhbr.net/articles/-/2181

ダイヤ販売の破壊者ブルーナイルに
ティファニーはどう対処すべきか


ジュエリー業界における競争優位を取り上げる。婚約指輪をオンラインで安く販売し破壊者となった、ブルーナイル。同社の脅威に対し、既存の宝石商と高級ブランドは何をすべきなのか。

ティファニーのダイヤモンドを、アスター家の人々はいくつも身に付けた。マリリン・モンローは映画のなかで、それを 「女の子の1番の友達」 と呼んだ。

オードリー・ヘップバーン扮するホリー・ゴライトリーは、ニューヨークにあるティファニーの旗艦店を「地球上で最高の場所」と言った。

だが今日では、ダイヤモンド購入者の大きな一角を占める人々――プロポーズをしようとしている男性――にとって、ティファニーの高貴な青い小箱は答えではない。

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彼らが選ぶのはオンラインの低価格ダイヤ販売業者、ブルーナイル(Blue Nile)である。ブルーナイルの脅威を一番感じているのは、小規模な宝石店だ。しかし次第に、ゼールス(Zales)などの中間クラスの小売業者も、さらにはティファニーやカルティエといった最高級ブランドもその脅威を感じるようになっている。

では、高級ダイヤ販売店はブルーナイルにどう対処すべきか。答えは直感に反するかもしれないが、 「何もしない」 ことだ。

私のハーバード・ビジネススクールの同僚であるクレイトン・M・クリステンセンとマクスウェル・ベッセルが 「破壊的イノベーションの時代を生き抜く」(本誌2013年6月号) で説明しているように、既存の企業は自社の相対的な強みにフォーカスしたほうがよい場合もある。破壊者との正面対決は避け、市場の一部を譲るのだ。

ブルーナイルの1番の強みは、ダイヤの指輪をオンラインで、従来の小売店より最大35%も安く販売していることだ。

同社の基本的な考え方は、ダイヤモンドルース(研磨済みで、指輪への加工前の石)はコモディティである、というものだ。

男性がダイヤを選ぶうえで必要なのは、いくつかの計測可能なデータ(たとえば4Cと呼ばれる、カラット、カット、カラ―、透明度)と、何枚かの写真、それに価格だけだとしている。また、同社はダイヤのことを学べる使いやすいツールを提供し、大量のバーチャル在庫を有する(同社はダイヤの卸売業者の仲買人的な役割を果たしている)。

指輪を探す手早さと値ごろ感を優先し、ノーブランドであることをいとわない男性にとって、ブルーナイルが最適であるのは明白だ。

ダイヤそのものに予算の全額(石のサイズにかかわらず)を使いたい男性にとっては、ブルーナイルはよい選択肢となる。

だが一方で、予算の一部を個人に向けられたサービスや特定のブランドに対して払いたい人もいる。こうした顧客は、ブルーナイルの顧客とは異なる 「果たすべきタスク」 を持ち、こちらへの対応はブルーナイルよりも従来型の業者のほうがうまい。

たとえば、最適な指輪を見つけられるか心配なので宝石商に頼りたいという男性にとっては、実店舗のほうが安全だろう。

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店舗では、それぞれのダイヤの輝きを自分の目で確かめられるし、店員の芸術的センスをあてにして直接相談することもできる。

高級ブランド店では、商品は社会的にもお墨付きをもらった、プロのデザインによるものだと確信できる。

ある若い男性は私へのメールで、ブルーナイルで買わない理由は「中古車をイーベイで買わないのと同じだ」と書いている。

「車は走行距離や年式、メーカーやモデルだけではない(変な匂いがしないか、スムーズに走るか、なども考慮する)。同様に、ダイヤモンドも4Cだけでは決まらない」。

私の友人は、彼には自分自身の感情を尊重する傾向があると見たが、彼は購入において 「自信よりも価格を優先」 し後悔のあまり眠れなくなる、ということを避けたかったのだ。

ここがポイントだ。つまり、ブルーナイルのオンライン店舗は、 「指輪の選択において完璧な自信を持つ」 という彼のタスクを果たすことができないのである。

もちろん、ダイヤモンドの婚約指輪を買う男性のなかには、さらに別のタスクを果たしたい人もいる。ステータスを示すことだ。彼らに対しては、高級ブランド店が向いている。

どれほどブルーナイルが努力しても、上記の2つのタスクを果たし、ティファニーや実店舗の同業者と競い合うことはできないだろう。

そうするためには、ビジネスモデルの大きな障壁を乗り越えなければならない。競争のスタートラインに立つには、実店舗のネットワークを築き、ダイヤモンドの実在庫を持ち、十分に効果を発揮する継続的なマーケティング活動に投資する必要がある。

これを実行したら、同社のコスト構造は完全に崩れ、高価格をつけざるをえず、競争優位を失うことになる。

では、従来型のダイヤモンド販売店はどう動けばいいだろうか。ローエンドの破壊者と直接対決するのではなく、彼らが果たせないタスクに磨きをかけるべきだ。

ティファニーであれば、高級なイメージを深化し、ステータスを示すというタスクにフォーカスし、低価格の〈リターン トゥ ティファニー〉のラインは廃止する。

ティファニーの青い小箱を誰もが手に入れられるものにしたら、その特別なブランド価値は損なわれ、ステータスを表す力も弱まる。

ゼールスやジャレド(Jared)など中間クラスの小売業者がフォーカスすべき顧客は、「恋人が欲しがる物を、間違いなく買っている」という自信を持ちたい人たちだ。このタスクを果たすには、たとえば店舗で 「ダイヤモンド・ナイト」 などを開催したらどうか。

友人どうしで立ち寄り、ダイヤの指輪を試せるイベントである。来店した女性がお気に入りの指輪を見つけたら、それを店に登録する。店は女性の友人や恋人がその情報にアクセスできるようにしておく(尋ねられた時に公開するのが望ましい)。

ガールフレンドがある特定の指輪を気に入っているとわかれば、指輪を買おうとする男性は(予算が許せばだが)、彼女をがっかりさせないようにと店を探し回ることがなくなるだろう。

理論のうえでは、比較的単純なことのように見える。では、なぜ現実にはとても難しいのか。どの企業も、破壊に直面した場合、まったく勝てないとは認めたくないのだ。

しかし、時に一部の顧客を手放すことは、絶望の末の行動ではない。むしろ、ブランドを本来あるべき場所に戻すことなのだ。

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HBR.ORG原文:Blue Nile's Cheaper Diamonds Need Not Threaten Tiffany. Here's Why. December 5, 2012


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