試験勉強の合間の休憩。ちょっと誰かと話したくなって電話をかけるも誰も出ず、メッセが来たと思ったら「寝る」とか言い出し、「おれは一人だ」と嘆きつつ、久しぶりに散歩に行くことにした。早稲田通り沿いを裏道に入ったりしながら歩いてたんだけど、昔のことを思い出してふと懐かしくなった。受験生時代、夜中にコーヒー買いに外歩いた時も、こんな感じで寒かったな。あん時は一人じゃなかったけど。
実家には昔、おれが生まれた年に貰ってきた『クロ』って放し飼いで飼ってる柴犬がいて、おれはクロが大好きだった。ほとんど毎日遊んでたし、一緒に散歩も行ったし、おれがトレーニングで走ってた時も一緒だった。高校の時は帰り道コンビニに寄って、少ない小遣いの中からクロにあんパンとか買ってってあげるのが日課だった。受験生時代もそんな感じで、毎晩、気分転換に遠くの自販機までコーヒーを買いに行ってたんだけど、クロはヒョコヒョコ付いて来てくれた。コーヒーよりも、夜中にクロと歩くのが楽しみだったのかもしれない。そのとき、昔はクロと相撲やったりしてた事を思い出して、「クロってこんな小さかったんだ」って思ったりしてた。
でも高3の1月になって、クロが歩けなくなった。年のせいらしい。おれとクロは同じ年に生まれて、おれはまだまだ元気なのに、クロは歩けなくなってしまって、なんだかすごい悲しかった。その日からは近くの自販機でコーヒーを買うようにして、クロが横になってる木の下に座って1時間くらい話す様になった。もちろん相手は犬だから、おれが一方的に話してるだけだけど。クロは動けないから体温も上がらなくて、寒そうで可哀想だったから、厚いタオルを下に敷いて、上にも同じのを掛けてあげた。やっぱおれはクロが大好きだった。
センター試験の3日前、いつもみたいに夜中、クロの側に座ったとき、ふと「あ、クロは今日死ぬんだな」って感じた。そんで「おれが来るまで死なないでいてくれてありがとう」って言って頭なでてたらクロが泣いてた。犬が泣く訳ないって思ったんだけど、やっぱり両目から涙出ててさ。ほんとに。それでおれも涙出てきて、寒いから涙がすぐ冷たくなって、頬を伝ってくのがリアルだった。その晩は何時間もクロの側にいて、頭撫でながら今までのお礼とか、意地悪した時のことを謝ってた。おれはホントに涙が止まんなくて、何回も「さよならクロ」って言った。泣き過ぎで頭がガンガンして痛かった。家の中に戻る時も、クロはやっぱ泣いてたけど、なんか満足そうな顔してた。
翌朝、外に出たらじいちゃんがいて、「Aちゃん、クロ死んだよ」って教えてくれた。「起きてクロの顔おしぼりで拭いてあげたら、拭き終わった後にすぅー、って死んだよ。全然苦しそうじゃなくて、いい顔してたよ。」って言ってた。クロは小さいダンボールに入れられてて、すごい小さくなってた。おれはクロの頭を1回だけ撫でて、駅に向かった。クロはおれが学校にいる間に、じいちゃんが埋めてくれた。
それから3年経った今でも、実家に帰った時にクロが飛びついて来ないので「あれ?」って思ったりする。夜中にコーヒー買いに行く時に寂しくなったりもする。毎年お盆には、1人であんパン持ってお参りに行く。んで、身の回りで起きた事を教えてあげたりする。周りから見たら、石に向かってしゃべってる変態野郎なんだろーけどさ。それでもいいんだよん。
今日は、そんなことを思い出してしんみりしながら散歩した。でも涙は出なかった。ホントはちょっと泣いた。
おれの結婚式には、クロの写真を立派な額縁に入れて家族席に置いておきます。おれは今でもクロが大好きです。
