とある60代の女性

彼女は進行した肺がんで脳にも多数転移があった



治療はもちろん養生にも懸命に専念

しかし一向に病勢は治まる気配をみせない

だんだんと腫瘍は大きくなるいっぽう



万策つきたかと思う矢先

急に腫瘍の勢いが鈍り始めた

みるみる腫瘍は小さくなっていき

今ではまったく腫瘍は認められない

主治医は大きく首を傾げ、本人は大喜び



もちろんそれは大いに万々歳なのだが・・・・

当時の僕には不思議でしかたがなかった



後日彼女に訊いてみた

万策尽きた頃のことを



夫にこれといって欠点はないが、なぜかずっと夫を好きになれなかった

夫のせいで自分の人生が非常に損をしているとさえ心の中では思っていた

夫をどうしても許せない自分がいて、それがずっと心の枷になっていた



ところが腫瘍が次第に大きくなり

いよいよ主治医からも見放されかけていたある日

ふと気づいたことがあった

ひょっとしたら損をしているのは自分よりも夫のほうではないのか

そう思うと急に夫に対して感謝の気持ちが湧いてきて

涙がとめどなく流れてきた

そしてなぜか自然になにもかもが許せる気持ちになった

気づいてみれば、長年の心の枷はどこかに消えうせ

すべてにふっきれ、清清しい気持ちになった



それから10年あまり、同じようなケースに時々遭遇するようになったが

そのたびごとに、いつも彼女のことを思い出す


もちろん今では不思議に思うことはなくなったが・・・