友松直之「禁じられた旋律 処女にナニが起こったか」(2011) | 映画遁世日記

友松直之「禁じられた旋律 処女にナニが起こったか」(2011)

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禁じられた旋律 処女にナニが起こったか (2011)
監督:友松直之
脚本:貝原クリス亮、石川二郎、友松直之
撮影:飯岡聖英
特殊造形:石野大雅
出演:原田明絵、森羅万象、上加あむ、稲葉凌一、久保新二、久保和明、山段智昭、貝原クリス亮、廣田トモユキ

先日、友松監督にTwitter上で「禁旋律の感想は?」と問われ、返事に窮してしまった…。じ、実はテンションが…上がらなかったのである。この「禁じられた旋律~処女にナニが起こったか」には(諸々の理由で)海外版と国内版の2つのバージョンが存在するそうだ(友松直之監督のブログ参照)。こう書くとどうってことないカンジを受けるかもしれないが、国内版が残酷描写を1分削ったカット版、海外版がゴア描写そのままのアンカット版、である。これだと印象も違ってくると思う。葬り去られたショックシーン…たった1分であれ、とてつもなくデカい

たとえそれが数秒であったとしても、歴代スプラッター映画の名残酷シーンってヤツは、我々の一生の想い出となっている。僕なんぞ1年365日のうちの約200日は映画「マニアック」(1980)のトム・サヴィーニ(自身)の頭が吹っ飛ぶショットについて思いを馳せていたりする。社内でムカつく事があったら「(頭)ドカン」、「どっこいしょ」と荷物を持ち上げたら「(頭)ドカン」、そんな具合に。ここ数年ではフとした瞬間に「ゾンビ3」(1979)のおっぱい食いちぎりシーンを頭に思い描いたり。かようにホラー映画大好き人間というのはことごとくバカなのである。

しかし友松映画のファンである自分がそんなことで愚痴をこぼしてばかりでは、何も前進しない(何を前進させようとしてんだよ俺はよ)。とりあえず、「禁じられた旋律」…そのソフトバージョン(←その書き方やめいw)を鑑賞したので、元気を振り絞って感想を書いてみようと思う。

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「華麗なるエロ神家の一族~深窓令嬢は電気執事の夢を見るか」にはじまり、「君はゾンビに恋してる」と続いたクロックワークス×レオーネ×友松直之監督によるエログロバカスプラッターシリーズ(萌え要素多し)。本作が第三弾で、この後も第四弾「赤頭巾vs狼男軍団」(仮題)、第五弾「泡姫陰陽師奇談」(仮題)と続いてゆく。前二作までは豪快に首がもげ体がバラバラになったりするスプラッター描写があったのだが、本作ではそれがない…あ、さっそくまた愚痴ってしまった。スプラッター描写が"ない"というワケではないのだが、地味に処理されている。では、作品全体はどうだったのか?…悪くはない。悪くはないのだが、「エロ神家」「ゾンビに恋してる」がなかりの面白さであったので、それに比べると(残酷シーン云々抜きで)若干のパワー不足を感じてしまった。本作は、タイトルからも伺えるとおり元ネタはキョンキョン主演の大映ドラマ「少女に何が起こったか?」(1985)である。しかし、監督は自身のブログでこう書いている。

「言うまでもなく本作はキョンキョン主演の大映ドラマ『少女になにが起こったか』を原典にしたパロディになっている。だが残念ながらわしゃそれほど熱心に観ていたわけではなく、あまり印象にも残っていない」「もちろんユーチューブなどで検索したりいろいろと勉強はしましたが、原典ファンの皆様、至らない部分があったらごめんなさい」

そのような付け焼き刃的な状態のまま本作に挑んだからであろう。全体的に「なんか…違うんだよなぁ~」といった印象が拭えず、さらには手探り状態なためか、何処となく本来の友松監督特有のノリノリ感がナリを潜めてしまっているのである…。

増村保造監督の仰々しくてトゥーマッチでトチ狂った感覚がTVドラマに舞い降りたかのような世界観で、今尚カルトな人気を誇る大映ドラマ。僕も多感な時期には大変お世話になったものだ。自分が大映ドラマをよく観ていた時期の常連俳優…松村雄基大先生を筆頭に、伊藤麻衣子、国広富之、比企理恵、鶴見辰吾、伊藤かずえ、岡田奈々、名古屋章etc…これらの俳優さんは今でも心の中のマイ・ヒーロー(ヒロイン)であり続けている。ちなみにマイ・フェイバリット大映ドラマは「不良少女とよばれて」(1984)。個人的には、松村雄基が暴走してくれさえすりゃーそれで満足という…(笑)。因に「少女に何が起こったか?」はそんなにイイとは思わなかったな…。

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「おい!薄汚いシンデレラ!」…オリジナルでは石立鉄男が演じていた超ウザったい刑事役を稲葉凌一さんが石立風アフロヅラを装着して再現

別段コアな大映ドラマ・マニアというワケでもない自分ですらこのように何かしら語りたくなる…。それほどまでに大映ドラマって熱いのである。ゆえに大映ドラマのことをよく分かっていない友松監督なんていうポッと出(あくまで大映ドラマに関してですよw)がおいそれとそのパロディに手を出すべきではなかった!(メーカープロデューサーからのお達しだったそうですが)…が、そこはそこ、当時大映ドラマに大いにハマっていたという共同脚本・石川二郎監督が「大映ドラマっぽさとは何ぞや?」という観点から睨みを利かせていたそうで、ギリギリのところで踏ん張っては…いる。そんな仲間に恵まれているところも友松監督らさであるのかもしれない(なんじゃそりゃ)。

しかし本作はこのようにネガティブ要素(しかも個人的思い入れからくる難癖ばかり)ばかりではない。そういう前作との比較とか大映ドラマとの比較とか、そういうことを除けばとっても楽しい作品である。なにが楽しいかって、まず、主人公の半径数十メートルくらいしかなかった「少女に何が起こったか?」のスケール感を、「バンパイア・ウィルスによって地球の人口の半分が死滅した後の世界」という超デカいスケールまで拡大させていたこと。オチは若干「マーズアタック」(1996)入ってたし(笑)。

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このようにパンデミック・バイオ・ホラーの側面を持つ本作なのではあるが、何故"バンパイア"なのかはよく分からない。ゾンビでもええやん(笑)。きっと最近ゾンビものが続いたので、バンパイアにしてみた…だけなのだろう。ま、とにかく大映ドラマ(もどき)にパンデミック・バイオ・陰謀論・ホラーがカラんでくる…楽しいでしょ?

他にも、あくまで大映ドラマっぽさを醸し出さんとする"来宮良子っぽい"ナレーション、可愛い絵柄のCM前のアイキャッチ(イラストby内田春菊!)、ポール・ヴァーホーベン的"映画内CM"…そんなお遊び(悪ふざけ)の数々がベタで楽しい。

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 右端に石川二郎監督、隣のバンパイアは貝原クリス亮監督

役者さんに目を向けると、ベテラン男優陣、特に久保新二さんと稲葉凌一さんがすごくイイ。

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稲葉凌一さんは(最近でいうと)城定秀夫監督「デコトラギャル奈美」シリーズのヒロイン(吉沢明歩)の父親役で見せていたような、コテコテの演技をさせるとそれはもう天下一品である。なので本作においても、大映ドラマっぽいコテコテ演技を孤軍奮闘頑張っていた。もし稲葉さんが居なかったら本作の大映ドラマっぽさは皆無であったと言っても過言ではない(笑)。

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「これ、生きてりゃガミさん(野上正義)の役だな」と言いながら参戦されたという久保新二さん(以下久保チン)。後藤大輔監督の「となりの人妻 熟れた匂い」(2011)といい本作といい、ここ最近の久保チンは老人役に磨きがかかっていると思う。それも、"温和なイメージ"の老人である。かつての破天荒で傍若無人でバカな姿からは想像出来ないくらい、久保チンは自らの新境地を切り開いているのである。嫌味とも自虐とも取れる「これ、生きてりゃガミさんの役だな」という言葉…しかし、僕はマジで久保チンは野上さんのポジションに立つべき存在だと思う。「野上さんの代わり」ではなく、久保チンならではの老人像を持って。もちろん、本来の暴走コメディ演技もあるのだから、狙って二足の草鞋でドンドン映画に出演して欲しい。友松監督も、盟友・大俳優・久保新二さんに「わいせつ性楽園 おじさまと私」「メイドロイド」並の傑作老人映画をプレゼントするべきである。機は熟せり、本気でそう願う。

最後に…

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サディステック&マゾヒスティック・メイドさん役の上加あむさん。実はこの上加(かむか)さん、僕が友松監督に推薦した…みたいなことになっているみたいです(笑)。以前、友松監督が自身のブログ上で「○○を撮るにあたって、誰かいい女優さんがいたらどなたか教えてください」みたいな感じで呼び掛けられた事がありまして、その時、トモマツファン(なのか?)の皆さんはこぞって倖田李梨さんを推薦していたのですが、僕は「倖田李梨じゃ当たり前すぎるだろ!(←悪口ではありません・笑)」と、ちょーどその時吉行由実監督「アラフォー離婚妻 くわえて失神」(2009)で見ていいなぁと感じていた上加あむさんの名前を書きました。結果、倖田李梨さんは友松組にちょくちょく呼ばれるようになり、上加あむさんも本作で大フィーチャーされたりと、ブログの書き込みってバカにならないなぁ!と感じた次第です(笑)。

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ただ、上加さん自身がもし「友松監督ぅ?…こんな映画ヤダー!」とか思ってたりしたら申し訳ありませんでした!しかしこの友松組ではまだ上加さんの本領は発揮されていなかったように思いますので、ここはいっちょ嫌がる(?)上加さんをサディスティクに再召集して欲しいと存じます。

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おわり