後輩くんははじめは訂正してた。
カーニさんがきれいと言われたくないならもう言いません。でも僕は本当に綺麗だと思うからきれいと言ってました。とか、
カーニさんのために、カーニさんがやりたいと言ったから、こんなにも遅くなってまで仕事をやっていた。とか
けどさ。そんなの私のためじゃないよね。
私は頼んでないし、後輩くんあなただって会社のためにやったのでしょ。私のため私のためって言わないで。
そんな事を言った。彼の言葉全てを拒否した。
彼は最後、分かりました…と言って電話を切った。
始まってないから、始まりも終わりもない恋。
心は痛んだ。けど私には家庭と夫以上に大切なものなどなかったから、ここで先の見えない恋愛ごっこをすることに疲れていたし、後悔はなかった。
そもそも始まってないから、これでまた普通に仕事ができると思っていた。
毎日来ていた電話とLINEが来なくなって、
家族に向き合う時間が増えた。
どこかでポッカリ空いた穴を埋めるように、私は夕方料理に腕を奮った。
連絡する事があって、だけど後輩くんとは直接話したくないので、たまにLINEでやり取りはしたけど。何事もなく時間は過ぎていった。ある時おや?と、不思議な事が起こった。何日経っても既読にならない。
数週間経って流石におかしいと思い、後輩くんに何故既読にならないのか聞いたら。
すみません、LINEブロックしてました。だって
えー!ちょっと仕事の人を何故ブロックする?
だけど不思議な事もある。その前のLINEは繋がってたり、変なのだ。
で、えー、ちょっとブロックは仕事困るからやめて。びっくりなんだけど。
けど前のLINEはどうして繋がったの?と聞いたら、
すみません、実はLINEはブロックと解除を繰り返してましただって
人生初めてLINEブロックをされた。しかもブロックと解除を繰り返しされてたらしい。さらに、そのことに気づかず2ヶ月経って言われるいう…
普通、それしてた相手に面と向かって、ブロックと解除を繰り返してたとか言うか?
おかしいでしょ、後輩くん。しかもそれは公私混同だよ。
そこで私は一気に目が覚めた。恋の終わりはこんなもん。
さらに後輩くん、今まで尽力を尽くしてくれていた私のプロジェクトの邪魔をはじめた!と言う、何とも幼稚な攻撃に出てきた…
めんどくさいヤツ。それが私の最終判断
なんだよ、あの熱く語った意気込みは嘘だったのかい?
君の本当はなんなんだ?
私はそれを見ながらつくづく踏み外さないで良かったって思った。そんな彼との行く先は見えてるよね。
失望はしたけど後輩くんとはそれまでと同じように接してきた。ただ電話やLINEがないだけ。必要以上話さないだけ。ひっそり思っていた恋心も冷めただけ。
そして後輩くんはその年度末仕事を辞めた。
はじめるきっかけはたくさん転がってるけど、自分がスタートボタンを押さなければ、恋愛は始まらない。
不倫の何が嫌いって人を欺くこと。1番大切な人を欺いて始まるから。誰にも責任も持たず誰のことも大切にしてない。それが受け入れられない。
少なからずはじめないことは後輩くんへの愛情でもあると思うし、もちろん夫への愛情もはじめない事で守っていた。
そして後輩くんが辞める頃には
また普通に話をできるようになってた。だけど、やっぱり後輩くんは変!って思う事があった。
退職の時にうちの課では皆でプレゼントをするのだけど、取りまとめがその年は私で。何か欲しいもの(希望)ありますか?
みたいな事を聞いた時…
「欲しいもの、欲しいもの、なんだろう。」
としばらく考えて、
「カーニさん、カーニさんが欲しい」と言ってた
この期に及んで。なんなんだこの人は。
と、絶句した。
結局後輩くん何を思ってそんな事を言うのか不明だったけど、私に対して無責任だったよね。
あしらわれていたとは言え、既婚者に好きですとか大好きですとか、カーニさんが欲しいとかいわないでしょ。
しかも彼女いるらしいのに。
責任を取れない軽はずみなことは言うべきではないし、それは私を好きなわけではなく自己愛でしかない。
夫は。
夫は私の全てまるっと全部を彼なりに精一杯大切にしてくれてる。こんなに私を大切にしてからは人は夫以外いないのではないだろうか。
夫と結婚して良かった。
踏み外さないで良かった。
やっぱり私は夫が大好きだと
その時本当に心から思った。