先日読んだ、このインド系アメリカ人の作家さんの短編集「停電の夜に」は、どのお話にも
異国での暮らしや、結婚を通して、異なるものとの出会いと、そこに馴染んでいく過程が
共通のテーマとして流れていました。
このたび読んだのは、長編小説ですが、流れているテーマはやはり同じであると感じました。
こちらは映画化されているものを先に観ていますので、あらすじなどは、
映画「その名にちなんで/ The Namesake」記事リンク をご参照くださいませ。
列車事故で瀕死の重傷を負い、インドを出て新世界で勉強をしなおし、一から自分の新しい人生を築き始める
年若いアショク。
見合いのために国に帰ってきたアショクとの婚礼を経て、夫以外は誰も知らないアメリカのボストンで
新婚生活を始める、妻のアシマ。
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二人の結婚生活は、ひとつひとつの困難を共に乗り越えたり、望郷の念を共有したり、
力を合わせて土地に根を下ろし、自分たちの家庭やコミュニティを作り上げていくことで、
強い信頼と愛情で結ばれるようになって行きます。
一方、二人の間に生まれた長男のゴーゴリは、二つの名前(二つのアイデンティティ)の間で葛藤を抱き、
両親のように、ほとんど知らない誰かと親のすすめるままに見合い結婚などせず、
自由に恋におちて、自分の意思でパートナーを選ぶのだけれど、
三人の女性との関係はどれも、両親が築き上げてきたような強い絆は結べないまま。
ゴーゴリの人生の旅は、まだ道中で、これからも彼は様々な経験をしていくことなのでしょう。
彼の目から見て、どこか苛立たしく頼りない存在だった母親のアシマ。
いつまでも故郷に心を残し、アメリカに住んでいるというのに周りをインド出身の友人ばかりで固め、
サリーを着て、インド料理を食べ、車の運転さえ出来ず、いつも危険に細心の注意を払って暮らす。
ガールフレンドの両親のように、気の利いた会話や、ゆったりとしたバケーション、洗練された食事やワインを
楽しむこともなく、全てをインド式、インド風のままで過ごしている姿を恥ずかしくさえ思っています。
けれど、本書の終わりで、一大決心をしたアシマの姿は、ゴーゴリが思っていたよりもずっと堂々とし、
インドとアメリカ、両方にしっかりと根を下ろし、自分の世界を着々と作り上げてきた女性の姿でした。
映画と原作では、後半少々違っていますが、
どちらもよかった~
今回は原書で読みましたが、とても丁寧で静かに語られているのに、読者をお話の中にどっぷりと
没頭させること間違いなしの、魅力的な文章でした!!