今回のような大震災では、直接被災したわけではなくとも、
気分的に落ち込んで、何かを楽しむ気持ちになれなかったり、
また楽しむことに対して罪悪感を抱いてしまうこともあると思います。
生活が根本から揺るがされ、贅沢は見直し、もっと質素に堅実に暮らさなければ・・・
と、人生を見直すことになったりもするでしょう。
また、少しでも被災された方々の力になりたい、復興を助けたいという気持ちにもなりますね。
日本からは距離のあるカリフォルニアでも、募金活動をはじめ、数多くの人々が知恵を出し力を出し合って、
救済のためのプロジェクトを立ち上げています。
このようなときには、
音楽だの絵画だの映画だの、そんなのは無駄な贅沢にすぎない。
もっと直接的、生産的なことにエネルギーと時間を費やさなければならない。
そんなムードが出てくることがあるでしょう。
でも、私は、それは違うと思うのです。
自分さえ楽しければよい、自分さえ幸せならよい、自分の欲望さえ満たせばよい、という生き方は寂しいけれど、
ちゃんと社会の中で働きをし、自分なりに精一杯のことをしている人が、
音楽や絵に触れて心を解放する時間は、直接的な生産性はないかもしれませんが、
とても、とても、大切なものだと思うのです。
人間の生活に、目に見える生産性しかなくなってしまったら、どんなに味気ないことでしょう。
音楽や絵や本や映画は、切羽詰った状況にあるときには楽しむ余裕がなくなってしまうとしても、
けして無駄な贅沢ではないはずです。
むしろ、切羽詰った気分をほぐしてくれたり、落ち込んでいた気分を前向きにさせてくれたり
そんな大きな力がありますよね。
チャリティーコンサートの記事で音楽の持つこうした力を改めて感じたことを書きましたが、
絵にもそうした力があると、私はいつも思っています。
そういえば、結婚したばかりのころ、夫以外誰も知った人のいないアメリカの田舎町に越して来て、
日本が恋しくホームシック気味だったときに、度々美術館に足を運んで、
そこで随分と穏やかな気持ちになれたことを思い出します。
現在、余裕のない人々に、一日も早く、こうしたものに触れられる日が来ますように・・・・
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少し前のことを振り返っての記事になりますが・・・
de Young Museum のオルセー展との関連で、同じくサンフランシスコにあるミュージアム Legion of Honor では
Japanesque というタイトルの企画展が開催されていました。
日本の浮世絵が、ヨーロッパの印象派に多大な影響を与えたのは、よく知られていますよね。
この展示では、
・1700年から1900年にかけての江戸での浮世絵の発展
・浮世絵に見られる日本の美意識
・ヨーロッパやアメリカにおける浮世絵からの影響
が、見られます。
もともと、当時の日本では、何枚も印刷可能な版画にはあまり価値を見出されていなかったのですよね。
ヨーロッパへ船で運ばれる荷物の中の詰め物として、こうした版画がクシャクシャと丸めて無造作に
入れられていたというのですから、受け取った人々はさぞ、驚いたことでしょう。
若い頃は、浮世絵といえば、永谷園のお茶漬けについているカード??
ぐらいのイメージで、特に好きだと思ったこともなければ、すばらしいと思ったこともなかったかもしれません。
でもね~
こうして、今、改めて広重や北斎の絵をじっくり観ると、ほんとうに感心してしまいます。
緻密な図柄。
大胆で斬新な構図。
鮮やかな色使い。
当時の「浮世」のよくわかる描写。
西洋のアーティストたちが、こぞって刺激を受け、あれこれとアイデアをまねて、
自分の作品に取り入れてみたくなった気持ちも、さぞや・・・・と思います。
(Legion of Honor Home Page よりお借りしています)
上の右の絵は、フランスのHenri Riviere というアーティストによるものです。
北斎の富士三十六景に影響されて作成した、「エッフェル塔36景 」というシリーズ作品のなかの一枚です。
こういうことを感じるのは、完全な身びいきかもしれませんし、
もちろん、個人の好みの問題もあるわけですが・・・
本家本元の北斎の作品と見比べると、やはりどうしても力量の差が明らか。
どうも、小さくまとまってしまっている感じが否めませんでした。
展示終了前日に、滑り込みセーフで観に行きましたが、間に合ってよかった~