オランダ野球ソフトボール協会KNBSBは隔年で二つの国際大会を主催しています(厳密に言うと主催元は違いますが)。その一つがこのワールドポートトーナメント。もう一つがハーレムベースボールウィーク。この二つの大会のおかげで、オランダ代表は、WBCなどの大きな国際大会があるなしにかかわらず、毎年代表チームとして闘うことが出来るということです。また、これらの大会の開催期間がいずれも7月だということもあり、チーム編成は国内リーグのホーフトクラッセの選手のみで形成されます。言わば、ホーフトクラッセでプレーする選手が目指す場所が、この二つの大会だといっても過言ではないでしょう。
参加チームも幅広い。国際大会ではおなじみのキューバをはじめ、アメリカ、台湾、そして我が日本。それぞれのチームが大学生や社会人などで編成されます。二つの大会に過去参加した有名選手を挙げると、キューバのヤシエル・プイグ(ロサンゼルスドジャース)、ユリエスキー・グリエル(元横浜)、アルフレッド・デスパイネ(千葉ロッテ)、フレデリック・セペダ(巨人)。アメリカでは大物ルーキークリス・ブライアント(シカゴカブス)。日本でも巽真悟(ソフトバンク)、伊志嶺翔大(ロッテ)、大野雄大(中日)、山崎康晃(横浜)、山崎福也(オリックス)、田中正義(創価大)など大物揃い。こうした未来のスター選手や、キューバ勢の現在のスター選手が参加する中で、オランダ国内組だけのチームがどこまで戦えるのか、を計ることが出来る貴重な大会でもあるのです。
今回の参加チームはキューバ、台湾、日本、キュラソー、そしてオランダ。キューバは主力メンバーがカナダで行われていたパンアメリカ大会に出場していたこともありB代表での参加。台湾はユニバーシアードにも出場した選手もいたもののプロ入りを控えた王柏融、林子崴、宋家豪、林志賢らがその準備を理由に不参加に。日本は阪神圏の大阪体育大学、関西国際大学、天理大学、帝塚山大学、大阪産業大学、甲南大学から選抜した24名。昨年のハーレムでは侍ジャパンとして、全日本の大学代表だったことを鑑みると戦力が落ちたことは否めません。以上より、オランダ代表が優勝候補、そして優勝しなければいけなかったことは明白でした。
結果は準優勝。決勝はキューバ相手に競り負けてしまいました。しかし、敗戦はこの決勝のみ。予選から決勝に至るまでのオランダの試合結果と内容を見ていただければ、オランダが安定した野球でいかに充実した大会を送ったのか理解していただけるでしょう。
第1戦 台湾 5-6× オランダ 勝:コルネリッセ
第2戦 オランダ 10-6 キュラソー 勝:ヘイステック
第3戦 オランダ 12-7 キューバ 勝:ファンドリール
第4戦 日本 1-2× オランダ 勝:プルーヘル
第5戦 オランダ 8-4 キューバ 勝:ボルセンブルーク
第6戦 オランダ 19-1 キュラソー 勝:マークウェル
決勝 キューバ 5-3 オランダ 負:コルデマンス計7戦 6勝 1敗
オランダ主催の大会でのオランダの優勝は2010年のハーレムが最後。それ以来の5年ぶりの優勝のチャンスだったんですが。残念。しかし、内容は悪くありませんでした。投手陣が多少打ち込まれることはあったものの、打線が活発。サヨナラ勝ちが2回と、勝負強さも目立ちました。では、今大会のオランダ代表を細かく見ていきます。
○投手陣
まず、先発投手陣を見ていきます。オランダの全6勝の内、先発投手に勝ちがついたのは3つ。ヘイステック、ボルセンブルーク、マークウェル。打線が早いイニングで得点できなかったことはありますが、3つは少ない。特に初戦と最終戦に登板したエース・コルデマンスは、それぞれ4失点、5失点と役割を果たすことができませんでした。今回の先発陣の中ではコルデマンスが40歳、マークウェルが34歳と高齢化が進んでいます。彼らは共に、侍ジャパンとのグローバルマッチにてヨーロッパの先発投手を努めたように、実績や今までのオランダ代表にもたらした功績は計り知れません。しかし、やはりチーム作りは中長期的な視座が必要になります。加えて、国内リーグホーフトクラッセにて27歳のケフィン・ヘイステックが近年圧倒的な成績を残し、成長を遂げてきています。昨年のユーロ2014の準決勝で先発を任されるなど、代表内での立ち位置も上がってきてはいるものの、自国主催で、色々なチャレンジができる大会だからこそ、ヘイステックを決勝に当てるといった、攻める采配を見てみたいものです。
くしくも、ドイツ・ブンデスリーガ所属、28歳のボルセンブルークも代表で昨年はノーヒットノーランを達成。今大会でもキューバ戦で7回5被安打3奪三振1失点と快投を披露しました。数年前までのように、レジェンド二人に取って代わるような存在がいないわけではありません。また、侍ジャパン戦で豪腕を披露したトム・スタイフベルヘンが故障のため不在でしたが、彼ら3人を先発の軸に添えたチーム作りに期待したいところです。
リリーフに関しては、NPB楽天からオランダに帰国したルーク・ファンミルが守護神に君臨したことで、安定した戦いの一助になりました。また、それまで守護神を務めていた、若き豪腕コルネリッセ22歳がセットアッパーを務めることで、ちょっとした勝利の方程式を作ることができました。加えて、国内で台頭してきたプルーヘルが、代表の中継ぎ左腕として貴重な働きをしました。近年、代表では左腕がマークウェルだけという異常事態が続いていました。彼や、アムステルダムで活躍している左腕ヴァルドが中継ぎに加われれば、プレミア12でも継投の幅が広がります。今回は先発しましたが、ネプチューンズのストッパー・ケリーもいます。彼は先発でも90マイルを超えてくる豪腕。WBC2013の際には、中継ぎで新しい投手が出てくるたびにレベルが落ちる、と揶揄されたオランダ代表。コルネリッセの復調、左腕2人の台頭により多少は改善できるでしょうか。
○打撃陣
今回、なんと最終的に3割を超えた打者が6名(ダーンティ、デクーバ、モスキート、レオノラ、ケンプ、ディアス)。シーズンで好調を維持していたダーンティ、ケンプ、ディアスらを選出し、効果的に起用したのが的中したのだと思います。これはあっぱれ。 中でも存在感を示したのがドゥエイン・ケンプ。内野は全て、外野もある程度はこなせる彼は使い勝手のいい選手。打撃にはパンチ力もあり長打も期待できる上に、セーフティバント、盗塁等、足を使って機動力も発揮できます。プレミア12では米マイナーからキュラソー組の野手がスタメンに名を連ねることになりましょうが、彼のような存在はユーティリティプレーヤーとして、十二分に戦力になるのではないでしょうか。怪我人が出た際のスタメンも十分に務まると考えます。
今回オランダとしては非常に得点力が向上しました。中でもともに7打点を挙げたのがロンブリーとリカルド。ロンブリーは長年代表を支えてきたベテランとして、予想内の結果ですが、リカルドは打てる捕手として米マイナーで期待されたにもかかわらず、昨年から移籍してきたオランダホーフトクラッセでも.260。大きく期待を裏切った状態でした。しかし、今年は息を吹き返した様にシーズン打率は4割を超えました。大会でも彼は勝負強さを発揮し、チームの得点力向上に一役かいました。今回の嬉しい誤算でしょう。
課題としてあげるのは長打。優勝したキューバの本塁打数が6だったのに比べ、オランダのそれはモスキートの1本のみ。ホーフトクラッセにもホームランバッターが育っているわけではなく、すぐに解決できる問題ではないでしょうが、ホームランバッター育成はオランダ野球上昇への長期的な課題。国内リーグホーフトクラッセのホームラン王も近年はキュラソー系がほとんど。オランダ本土からでもホームランバッターを供給できるようになれば、いうことはないでしょう。
守備に関しては、現在米ラマー大学の中心選手として、来年度のドラフトでMLB入を目指しているステイン・ファンデルミールが目立ちました。彼の安定感ある守備は日本の選手たちも目を見開いていたとか。
【個人成績受賞】
・首位打者 ヤシエル・サントーヤ(キューバ)
・最優秀防御率 ディエゴマー・マークウェル(オランダ)
・MVP ルルデス・グリエル(キューバ)
・ホームラン王 オスヴァルド・ヴァスケス(キューバ)
・新人王 クリスティアン・ディアス(オランダ)
・最人気選手 デゥエイン・ケンプ(オランダ)
○優勝チーム・キューバについて
今回の優勝もまたもキューバ。B代表とは言え、侮れないことは百も承知でした。ほとんどのメンバーはキューバリーグ各チームの主力級でシーズン3割越え。キューバ球界のホープで、横浜と一時は契約を結んだルルデス・グリエルもメンバー入りということで、メジャーのスカウトが大勢詰めかけました。
3本の本塁打を放ち、大会本塁打王に輝いたヴァスケスはキューバリーグ優勝チーム・シエゴデアヴィラの正捕手。9番を打った35歳フィスもシエゴデアヴィラ所属でシーズン11本の本塁打を放っています。こうしたことを鑑みても非常に強力な打線を揃えてきたことが伺えます。監督はWBC2013で指揮を執ったヴィクトル・メサという気合の入れようでした。
しかし、ボルセンブルークが7回1失点に抑えたように、この打線を抑えられる先発陣がいることも証明できました。これは自信にしていいと思います。
一方の投手陣。オランダ代表が唯一苦戦したと言っていい投手は決勝で先発したモンシートだけでしょうか。彼からは11回と3分の2で3得点に抑えられました。しかし、キューバ戦3試合でオランダの合計得点は23点。キューバB投手陣程度なら国内組だけでも打ち崩せる自信をつけることができたのではないでしょうか。
2勝1敗という結果から見ても、最早恐る相手ではないことは明白です。
○プレミア12への展望 プレミア12への展望ならび提言としていくつか述べます。
・先発投手人若返りへの挑戦
スタイフベルヘン、ヘイステック、ボルセンブルークを中心に。
⇒国外でプレーする有力な先発投手と言っても ホークスのファンデンハルク、米マイナーのスルバラン程度。先発投手は国内のみで大丈夫、と言われるような先発陣を作るためにも中長期的な育成を。
元カブスプロスペクト、ラルス・ハイヤーにも期待。
・機動力攻撃の活用
ケンプらの活躍
⇒前回WBCの決勝ラウンド進出を決めたキューバ戦でもオデュベルらの足で かき回す攻撃がキューバを慌てさせた。特に国際大会で好投手が出てくればなかなか打てるものではない。その中で、盗塁やセーフティバントができるケンプ、ドライヤー(アムステルダム所属)などの選手が控えにいれば心強いし、スタメンでも十分使い得る。
○おわりに
今大会を一言で表すなら、オランダ代表の成長が見えた大会だったのではないでしょうか。優勝できなかったということに、目に見えて課題が残りましたが、優勝はプレミア12に期待しましょう。
今回のワールドポートトーナメントはキューバがパンアメリカ大会とかぶりB代表。日本、台湾もユニバーシアードと日程が近く大学生のトップチームを集めることができませんでした。少しの日程調整で、よりいいチームが編成できたかもしれませんので、そういった工夫にも次は期待したい。以前に例がある様に、ドイツやイタリアなどヨーロッパのライバルの参加もぜひ検討して欲しいところです。
では、オランダ国内リーグも残り1カードでレギュラーシーズン終了。ポストシーズンへ突入します。プレーオフは例年通りのメンツになりましたが、オランダシリーズへ進むのはどこのチームか?楽しみです。結果はTwitterでも随時紹介していきます。
These photos were taken by Henk Seppen and Michel Sterrenberg.
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