短編小説 彩海2 | 秋 浩輝のONE MAN BAND

秋 浩輝のONE MAN BAND

はじめに言葉はない

彩海とつき合いはじめて1か月後のことだった。その日、彩海は会った時から言葉数が少なく、ずっと物憂げな顔をしていた。

「なんだか暗いなぁ。何かあった?」

「……悟(さとる)に聞いて欲しいことがあるの」

悟は俺のハンドルネームだ。

「なに?」

「ん……悟に心配かけるから、やっぱり言わない」

「言いかけてやめるなよ。余計気になるじゃないか」

「じゃ、言うね。時々、私に電話かかってくるでしょ?」

「あぁ…」

「気にしてた?」

「ちょっとな」

ちょっとどころではなかった。スマホをもぎ取って、相手(の男)が誰なのか確認したいとさえ思っていた。

 

「……元彼なの」

「やっぱりな」

「わかってた?」

「なんとなく……。で、元彼が今更何の用事なんだ?」

「実は私、彼に借りてるお金があって、それを早く返せと。返せないなら……」

「返せないなら、なに?」

「体で…支払えって…」

「なんだそりゃ? で、金額は?」

「150万…」

「ええっ、な、なんだってそんな大金を?!」

「ごめんなさい……」

「謝らなくていいから。で、体で支払ってるのか?」

「うん…」

「俺とつき合いはじめたあとも…か?」

彩海はこくりと頷くと、泣き崩れてしまった。

 

俺は怒りで全身がぶるぶると震えた。元彼と俺は彩海の体を共有しているのだ。元彼と彩海がセックスしている姿を想像するだけで吐き気がする。あぁ…もう気が狂いそうだ。彩海も彩海だ。同時期に二人の男とセックスして平気なのだろうか?

 

ひょっとすると、怒りは独占欲かもしれない。愛情とは言えない歪んだ感情かもしれない。そもそも、初めて会ったその日にセックスするなんて、しかも、互いに恋人がいるかどうかも確かめなかったし、いくらアプリで親しくなったからといっても、それはしょせんヴァーチャルな世界の幻想に過ぎないのではないか。いわば、ノリか勢いでセックスしたようなものだ。それを今更独占したいなんて、あまりにも虫が良過ぎないか。俺は自責の念にかられた。

 

「ごめんなさい。ほんとうにごめんなさい」

彩海は頭を床に擦りつけて謝った。

「いや、彩海は悪くない。別れたあとも彩海の体を弄ぶ元彼が許せないんだ。金が払えなければ体を要求するなんて…どこまでゲスな男なんだ!」

「違うの。お金にだらしなかった私が一番悪いの。私は男の人に甘えるのが一番嫌いなことだったのに、お金を借りるなんて…それこそが一番甘えた行為だった」

「これ以上、彩海が苦しむのは見ていられない。俺が…俺がなんとかするよ」

彩海は激しくかぶりを振った。

「だめよ。悟には迷惑はかけられない。自分で蒔いた種は自分で刈り取るから…心配しないで」

 

(続く)