素直 | 秋 浩輝のONE MAN BAND

秋 浩輝のONE MAN BAND

はじめに言葉はない

高校時代までの僕は超奥手だった。女性が苦手で、ろくろく話をすることもできなかったのだ。生まれて初めて女性とつき合ったのは、高3の終わり頃だった。自分に自信がなかったので喋りベタで、声も小さく、何をしてもカッコ悪く無様だった。

 

今考えると、初めて女性とつき合った高3の終わりの3か月だけが、僕のほんとうの青春時代だったと思う。つき合ったM子はつぶらな瞳をしたとても可愛い女性だった。なぜあんな可愛い女性とつき合うことができたのか、今でもよく解らない。案の定、たったの3か月で一方的に振られてしまった。

 

だが、その間にとても不思議なことが立て続けに起こった。今まで、ほとんど女性と話したことなんかなかったのに、つき合っていたM子以外の女性たちと親しくなり、色々話すことができたのである。

恋愛相談に乗ってくれたY美、僕の詩を読んでくれたり、洋楽の歌詞の和訳をしてくれたS子、僕が振られた時、慰めてくれ、一緒に映画まで観に行ってくれたK子、とても美人で、一緒に音楽を演奏したN子……彼女たちとはM子よりも遥かに充実した同じ時を過ごしたと言える。

 

なぜそれまで女性と話をできなかった僕ができるようになったのか? それは特にきっかけとかがあったわけではない。高3は私立文系クラスだったのだが、男女の仲がとても良く、クラスの1/3くらいの男女で一緒にスケートに行ったり、公民館を借り切って大騒ぎをしたり、僕が弾くギターに合わせて歌ったりしていた。しかも驚くべきことに、グループの女性たちは、みんな美女揃い……まるで青春ドラマの世界だが、事実である。

 

僕は高2の時は女性が一人もいない理系クラスだったが、思うところあって、私立文系に転向した。いわば「よそ者」である。なぜか、そんな僕をみんな受け入れてくれた。そんな友好的で暖かなムードが僕を饒舌にしたのかもしれない。自然とクラスに溶け込んでいった。クラス内には僕たちを含め3組のカップルがいた。

 

M子とつき合う前、男のクラスメイトY岡と「M子争奪戦」が行われた。クラスメイトたちは、どちらを応援するかで賑わっていた。みんな楽しそうにわいわいがやがや、お祭騒ぎである。結果、僕が勝ったのだが、決闘したわけではない。

M子に気持ちを確かめたのだ。

「Y岡君? う~ん、ちょっと……。秋くんが好き…」

M子は優しいリスのような眼をしながら、そう言ってくれたのだ。

僕は天にも昇るような気持ちだった。

勝ち目がないと知ったY岡は、自ら身を引いた。ひょっとすると、M子に告白して振られたのかもしれない。

Y岡は僕に言った。

「M子を大事にしろよ」

やはり、青春ドラマだ。

 

だが、いざ、つき合いはじめると、女性慣れしていない僕は緊張のあまり、M子とスムーズに話すことができなかった。他の女性と話すのは平気なのに、M子と話すときだけ、なぜか緊張してしまうのだ。毎日下校時、途中まで一緒に帰っていたこと以外は、休みの日に2~3回、デートしただけだった。情けないことに女性をリードしたり、楽しませることがまったくできなかったのである。

そんな僕にM子は愛想を尽かせたのだろう。M子から別れの手紙をもらい、あっと言う間に二人の関係は終わってしまった。諦めの悪い僕は、その後2回M子を呼び出し、元に戻れないかと言った。だが、M子の意志は変わらなかった。

一浪が決まった春先に、失恋の苦さというものを初めて知ったのである。

 

(了)