「う~ん、楽しいとは思わない。痛いかな」
「何が痛いの?」
「こんなことしてる自分」
「じゃ、やめようとは思わないの?」
「やめたいんだけど、温もりが欲しくて」
「温もり? 出会い系で知り合って相手の本名も知らず、愛情なんかなくて、互いに性欲を満たしてるだけの関係なのに、温もりなんてあるのか?」
「錯覚でもいいの。人肌の温もりが欲しいだけなのかも」
「よくわからないな。セックスって、愛情があって初めて満たされるんじゃないのか?」
「ほんとうは好きな彼としたいの。だから、彼氏ができたらやめる」
「それって都合良すぎない?」
「あたし、自分を憎んでいる」
「は? どういうこと?」
「憎いから自分に復讐してるの」
「意味わからない」
「あたし、穢れてるから」
「どうして?」
「お兄さんと寝たから」
「そうだったのか……、だけど、なんで自分を憎む?」
「気持ち良かったから」
「……」
「そんな自分が許せないの」
「ひょっとして君は……君ではないのか?」
「ふふふ、よく解ったわね。あたしは、主人格じゃないの」
「いつから、そんな……」
「お兄さんと寝たあとずっとよ」
「あたしは、気持ち良かったと言った主人格を憎んでいる。あたしは淫らじゃない。ほんとうに淫らなのは主人格の方よ。だからわざと淫らなことして復讐してやるの」
「他人格でも主人格と同じ一人の人間だろう」
「解離したら別人なのよ。あたしは主人格を乗っ取って、あたしが主人格になるの」
「何を馬鹿なこと言ってるんだ。主人格が壊れたら、君も壊れるんじゃないのか?」
「解らない……。だけど、もう主人格より、他人格のあたしでいる時間の方が遥かに長いのよ」
「ばかやろう! 自滅してどうするんだ!」
「いいのよ、それが運命だから」
「いいわけないだろう。君はさっさと主人格に統合されるんだ。そうしないと、俺は、俺は……」
他人格の彼女は、突然、気を失った。
俺は彼女を揺り起こす。
目を覚ました彼女の目の色から邪悪な光は消えていた。
どうやら主人格のようだ。
「あた…私、なにしてたの?」
「大丈夫だ。気分が悪くなって寝ていただけだから」
「迷惑かけてごめんなさい」
「なにも心配しなくていいよ。大丈夫だから」
「ありがとう」
だが、一瞬、目を離したすきに、
ニヤリと笑った彼女の顔を俺は横目で確認した。
2016.6.8
(了)
