ショートショート 宴会芸(改訂版) | 秋 浩輝のONE MAN BAND

秋 浩輝のONE MAN BAND

はじめに言葉はない

夢で見た話を元に作りましたので、整合性に乏しい内容であることをお断りしておきます


俺は自分の会社の職員全員が参加できるイベントとして、バンド演奏大会を企画した。平均年齢が若く、楽器を演奏できる人間が多いことに目をつけたのだ。いくつかのグループに分け、楽器が演奏できない人には、歌かバックコーラスで参加してもらうようにした。けっこうみんな乗り気で練習を始めた。俺は自分のグループでベースを担当することにした。

ところが当日、ベースが見当たらない。どこへやったんだろう? 思い出した。得意先のスーパーマーケットDH株式会社の業者用駐車場に置き忘れてしまったのだ。取りに行くと、あるにはあったが、壁に立てかけていたはずのベースが倒れていた。まずいことに車が通るスペースだ。悪い予感がした。おそるおそるケースから取り出してみると、悪い予感は当たってしまった。ベースはネックのところから真っ二つに折れていた。車に引かれてしまったのだろう。幸い、14フレットのあたりを垂直にスパッと切ったように折れている。これはうまくすれば、接着剤で繋ぐことが出来るのではないか?

会場に着いた俺は、同じグループのギター担当の田宮に折れたベースを見せ、意見を求めた。
「うん、なんとかなるんじゃないですか?」

かつて、各省の大臣として名を馳せた竹中平蔵氏とともに、元小泉内閣を陰で支えた元総務大臣秘書官、現慶応義塾大学大学院教授の岸博幸氏がいたので、彼にも聞いてみた。
「いけると思いますよ~」
と、あごをしゃくりながら言った。



とりあえず人からベースを借り、その場を凌いだ。

バンド演奏大会は盛り上がりをみせた。やがて、ラストのバンドが演奏をはじめた頃、得意先のHSトラベルサービス株式会社の若くて可愛い女性M子が俺に近づいてきた。M美とは挨拶程度であまり話はしたことがない。でも、そこはかとない色気が漂っていて、俺好みの女性だ。

M美は俺に近づくやいなや、俺の両手を握り、こう言った。
「前から好きでした」
M美は、みんなが見ている前で横になった。どうやら俺にキス以上のことを求めているようだ。俺は軽く彼女の唇にキスをした。周りは見て見ぬフリをしている。

するとどうしたことだろう、場所は突然、俺の部屋のベッドに変わった。どうやらM美と俺だけテレポートしたようだ。ところが、なぜか、そのすべてを俺はパソコンで動画として見ているのだ。どこからか男の声が聞こえてきた。

「それはあなたの願望を映す動画なのです」

俺は恥ずかしくなって、それ以上のことをするのはやめた。
そして俺は、再び、『宴会場』にテレポートした。

宴会場では、お笑い芸人のピスタチオが客席で、白目を剥く芸をしていた。俺は「せっかく芸を見せるなら、ステージの上でやれよ」と言って、ピスタチオをステージに連れて行った。そこで、ピスタチオは再び、持ちネタをやり始めたが、まったく受けていない。なんてことだ。俺は客席をぐるっと見回した。驚くべきことに、来ている人間全員が、ピスタチオと同じように白目を剥きながら会話をしていたのだった。

(了)



消えた芸人ピスタチオはいまいずこ?

2016.5.9
2019.5.31改訂