ショートショート 正男とアート(改訂版) | 秋 浩輝のONE MAN BAND

秋 浩輝のONE MAN BAND

はじめに言葉はない

夢で見た話を元に作りましたので、

整合性に乏しい内容であることをお断りしておきます

 

 

部屋もトイレも抜けた髪の毛の山また山。あいつのロッカーには、毛布が押し込んである。俺は毛布の奥にあった財布を奪って逃げた。

 
どうせあいつはチンピラだ。弱い人間をカツアゲした金に決まっている。だから、俺が有効に遣ってやるんだ。いったいそれの何が悪いんだ!  俺は口笛を吹きながら自転車を漕いでいた。
 
突然、地響きがして地面がパックリと割れた。俺は裂け目から真っ逆さまに落ちていく。だが、間一髪、俺の手が誰かに掴まれ、俺は地上に引き上げられた。
 
引き上げてくれたのは、なんとあの正男だった。正男はディズニーシーに遊びに行ったあと、たまたま、ここを通りかかったのだそうだ。正男に礼を言い、しばらく彼と身振り手振りで話した。正男は、今度、有名歌手のアート・ガーファンクルと一緒に、自転車旅行に行く約束をしたのだそうだ。
 
アートも放浪好きで、日本にお忍びで来日、自転車を買って、京都周辺を自転車旅行したことがあるらしい。そのあと野球観戦、偶然テレビカメラがアートを捉え、中継していたアナウンサーが、「なんと、サイモンとガーファンクルのアート・ガーファンクルさんが観戦しています!」と放送したそうで。その後、アートがレコード会社に電話、慌ててレコード会社の人が迎えにいったという逸話が残っている。
 
俺は自分が乗っていたブリヂストンの自転車と、太宰府天満宮で買った交通安全のお守りを正男にあげた。正男は「ゴスミダ ゴスミダ」と言って、喜んでくれた。ほんとに素直でいい男だ。
 
俺は正男とアートが気儘な旅を終え、無事に自国に帰れることを祈った。
 
(了)
 
2016.5.10
2019.5.31改訂
 
これを書いた時は、あの事件が起きる前でした。正男氏のご冥福を祈ります。
 
 
Art Garfunkel