キミは朝7時に目覚めのキスをくれる
カーテンの隙間から差し込む朝陽が眩しい
2階のベッドルームから螺旋階段を降りて
1階のダイニングキッチンへ向かう
キミが用意したトーストに牛乳
スクランブルエッグの朝食を摂ったあと
朝刊の三面記事を読みながら
アメリカンコーヒーを飲む……
キミは昨夜見たトンでもない夢の話を聞かせてくれる
夢の唐突さと矛盾にふたりは笑い転げる
10代の頃はそんな暖かな日常の何気なさに憧れていた
でもそんな風景はハッキリと見えたのに
「キミ」の顔や姿はまったく見えなかった
まるで小坂明子の「あなた」のように
「キミ」は真っ赤なバラや古い暖炉と同じ
ただの飾り物だ……
「キミ」はいったい誰なんだろう?
まだ生まれていないはずはない
今どこでどういう暮らしをしているんだろう?
未来へのあどけない憧れや大人びたすれ違いや機微を
勝手に想像してはノートに書き殴っていた
そして大人になって
想像とは違うたくさんの「キミ」に出会い
たくさんの「キミ」が去っていった
人は長い人生に於いて
いくつもの分岐点にさしかかり
その度進むべき道を選択しながら生きている
その時の選択が正しかったのかどうかなんて
あとになってもよく解らない
いくつかの他の選択の結果も見たいけど
それは不可能な話だ
もしも多世界解釈が正しかったとしても
別の世界に存在する自分を見ることは絶対出来ない
ただ間違いなく言えることは
互いの数多くの選択の果てに
今僕がここに居るということ
今キミがここに居るということ
それはとてつもなく低い確率の出会いだということ
もちろんあどけない憧れで見た風景はここにはないけれど……