「うちの子、最近ズボンの中に手を入れてばかりで……」「授業中におしりを触ってしまうんです」——保護者や先生から、こうした相談を受けることは少なくありません。自慰行為、つまりマスターベーションは、発達や性の自然な一過程として現れるものですが、知的障害のある子どもにとっては「どこで・どのように行うか」を学ぶ機会が限られている場合もあります。
今回は、このテーマにどう向き合うか、支援者としての視点と実践的な関わり方について一緒に考えてみましょう。
◆自慰は悪いこと? いいえ、自然なことです
まず大前提として、「自慰=悪いこと」という認識は避けましょう。子どもが自分の体に関心を持つのは、ごく自然なことです。特に思春期に入ると、体の中で性ホルモンが活性化し、性的な感覚が高まることがあります。
知的障害のある子どもたちも、性への関心や欲求は変わりません。しかし、「人前でやってはいけない」「隠すべきことではないが、場所とルールがある」といった社会的なルールを理解するのが難しいため、周囲の戸惑いにつながることが多いのです。
◆まずは“否定しない姿勢”が大切
「そんなことやめなさい!」「恥ずかしいことして!」と強く叱ると、子どもは混乱し、場合によっては性的な行動に対して罪悪感や羞恥心だけを抱えるようになります。
支援者や保護者としてできるのは、まず落ち着いて子どもを受け止めること。そして、「やっていい場所」「やっていい時間」「人に見せないこと」といったルールを伝えることです。
例:
- 「それは自分のお部屋で、ひとりでいるときにしてね」
- 「学校ではしないよ。おうちでね」
- 「ズボンの中に手を入れるのは、お布団の中だけにしようね」
否定せず、冷静にルールとして伝えることで、子どもは「隠すべきことではないが、社会にはルールがある」と学んでいきます。
◆「公」と「私」の区別をどう教えるか
知的障害のある子どもにとって、「公共の場とプライベートの場の違い」は非常に抽象的な概念です。たとえば「家と学校」だけでなく、「リビングと自分の部屋」や「ベッドと教室」など、場面ごとに細かく具体的に教える必要があります。
視覚的支援の工夫:
- 「家 OK」「学校 NG」などのイラスト付きルールカードを作る
- 図や写真で“プライベートな空間”を示し、「自分だけの時間」と結びつけて説明する
- ドアに「ここはひとりの時間」のマークを貼るなど、場所の可視化を行う
理解の難しい子には「赤・青」などの色分けで「してはいけない場面(赤)」と「してよい場面(青)」を視覚的に伝えると効果的なことも。
◆自慰行為が“こだわり”や“安心行動”になる場合も
知的障害のある子どもの中には、性的欲求というより「安心するから」「ヒマだから」「習慣として」自慰行為を繰り返すことがあります。
こうした場合には、性的な支援だけでなく、生活リズムの整えや刺激の代替行動の提案も大切です。
支援の工夫:
- 特定の時間に自慰行為が増える場合、スケジュールを少し変える
- 手指を使う別の遊びやリラクゼーションを用意する(スライム、にぎにぎボールなど)
- 「さわりたくなったら○○をしようね」と、代替案を明示する
自慰行為の頻度が高く、日常生活に支障をきたしている場合は、医療や心理の専門職と連携し、発達全体のバランスや心の状態をチェックすることも大切です。
◆保護者や支援者の“戸惑い”に寄り添う
多くの保護者は「まさかうちの子が……」「どう対応すれば?」と戸惑います。特に小学生年代で現れると、「性」というより「困った行動」と捉えられがちです。
そのようなとき、まず必要なのは、「あなただけではありません」「自然な発達の一部です」と安心してもらうことです。
学校での支援体制:
- 担任だけでなく、養護教諭やスクールカウンセラーとの連携
- 家庭と情報を共有し、過度な制止や放任を避ける方向性のすり合わせ
- 個別の支援計画に、性やプライベートな行動の支援目標を加える
学校が「ちゃんと向き合ってくれている」と感じられれば、保護者の不安もぐっと減ります。
◆おわりに
自慰(マスターベーション)は、「性教育」の中でも特に扱いづらいと感じられるテーマかもしれません。しかし、それは決して“問題行動”ではなく、「性と自分の関係」を学ぶプロセスでもあります。
知的障害のある子どもたちには、わかりやすく、安心できる環境とルールの中で、「自分の気持ちを大切にすること」「相手の気持ちを尊重すること」の両方を学んでいけるよう、日々の支援が求められます。
次回は、万が一のために備える【第7回】「性的なトラブルとその対応」について、加害・被害の両面からお話しします。