「知的障害がある子どもが、他の子の身体を触ってしまった」「わが子が性的な被害に遭ったかもしれない」——このような事例に、私たちは日々どう向き合えばいいのでしょうか。
性的なトラブルという言葉を聞くと、つい“加害”か“被害”のどちらかに目が向きがちですが、支援者の立場ではどちらの立場の子どもにも丁寧に対応する必要があります。今回は、知的障害のある子どもが巻き込まれやすい性のトラブルとその支援方法について、具体的に考えてみましょう。
◆なぜ“トラブル”が起きるのか
知的障害のある子どもは、「人との距離感」「ルール」「相手の気持ちを想像する力」などに特性を抱えることがあります。そのため、悪意がなくても性的なトラブルに発展することがあるのです。
例:
- 「好きだから近づきたくて、手をつないだ」→相手が嫌がっていた
- 「家で裸になるのはOKだから、学校でも服を脱いだ」
- 「アニメで見たことを真似して、人の胸を触ってしまった」
これらは、知的な理解や経験、支援の不足が原因で起きるケースがほとんどです。支援者としては、「本人に悪気がなかったから大丈夫」でも、「やってしまったことには社会的な意味がある」ことを丁寧に伝えていく必要があります。
◆加害的な行動が見られたとき
もし子どもに加害的な行動があった場合、まず重要なのは冷静に事実を確認することです。「誰に」「いつ」「どこで」「どういう状況で」行動があったのか、感情的にならず正確に把握しましょう。
そのうえで、
- なぜそうした行動をしたのか(背景)
- どこで認識のズレがあったのか(理解のギャップ)
- 今後どうすれば同じことが起こらないか(予防)
を整理し、子どもと一緒に「次からどうするか」を考える姿勢が大切です。
例:
- 「さわってはいけない場所があること」「イヤと言われたら止めること」を、絵カードで説明
- 行動を叱るのではなく、ルールとその意味を丁寧に伝える
- 日頃から「誰にでも触れていいわけではない」ことを伝える支援を入れる
必要に応じて、行動分析(ABAなど)を用いて、子どもの行動パターンやきっかけを支援チームで共有し、予防策を練ることも有効です。
◆被害に遭ったときの支援
一方で、子どもが性的な被害を受けた可能性がある場合には、心と体のケアを最優先に対応します。
知的障害のある子どもは、被害を「言葉で説明する力」が弱いため、支援者が変化に気づくことが大切です。
被害のサインの例:
- 急に服を脱がなくなる、異常に服を気にする
- 眠れなくなった・不機嫌が続く・急に暴力的になる
- 「〇〇くんに内緒って言われた」などの発言
「なんだかいつもと違う」…そんなときには、無理に聞き出さず、子どもが安心して話せる環境をつくることが第一歩です。
必要であれば、保護者・管理職・養護教諭・スクールカウンセラーと連携し、学校全体で対応を検討します。場合によっては、児童相談所や警察との連携も必要になります。
◆トラブル後の支援:「再発しない環境」と「本人理解の支援」
性的なトラブルが起きた後、加害・被害のどちらの子どもに対しても、「今後どう安心して生活を送るか」が最も大切です。
支援の視点:
- 責めるのではなく、具体的なルールの再学習(絵カード、写真など)
- 「やっていいこと・ダメなこと」「言っていいこと・ダメなこと」の再確認
- 子どもが安心できる「自分の味方」がいると伝える
また、加害・被害のどちらか一方に偏った支援ではなく、「関係を再構築できる支援」が理想です。トラブル後の関係に配慮しながら、適切な距離や関わり方を教えていくことも大切です。
◆「知らなかった」では済まされないからこそ
性に関するトラブルの多くは、「本人が知らなかった」「教えてもらっていなかった」ことが原因です。性教育を「トラブルが起きたときの対処法」ではなく、日常の支援の一部としてとらえることが、トラブルを防ぐ最大のポイントです。
トラブルを未然に防ぐために:
- 年齢や発達段階に合わせて、性のルールやプライバシーを定期的に確認
- 関わる支援者全員が、「性教育は誰にとっても必要な支援」と共通認識を持つ
- 家庭・学校・地域が連携して、「相談できる場所」「話せる人」を用意しておく
◆おわりに
性的なトラブルは、ときに深い傷を残すことがあります。その一方で、適切な支援と理解によって、子どもたちは何度でもやり直し、学びなおすことができるのです。
「性」は、特別なことではなく、日常の生活の一部。だからこそ、私たち支援者は性に関するトラブルにも落ち着いて、子どもの味方として向き合い続けたいですね。
次回【第8回】では、子どもたちの「恋愛」や「パートナーシップ」への想いに寄り添う支援について考えていきます。