第3回 中学部で育てる「社会性」と「自己決定」 〜自分で考え、自分で選ぶ力を〜
特別支援学校の中学部は、12歳から15歳の3年間。思春期の入口に立ち、身体も心も大きく変化していくこの時期は、子どもたちにとっても、支える大人にとっても、大きな意味をもつ成長の段階です。
中学部では、「社会とのつながり」や「自分の意思で決める力」を育てることが、学びの中心になります。
今回は、特別支援学校中学部の学習内容や生活、支援の考え方を詳しくご紹介します。
■ 思春期に入るということ
中学部に入ると、多くの子どもに心身の変化が訪れます。声が変わる、背が伸びる、イライラしたり不安定になったりする――これはすべて、自然な思春期の現れです。
知的障害のある子どもたちも例外ではなく、自分の身体の変化や、周囲との関係性に敏感になります。ときには理由のわからない不安や怒りを抱えることもあり、戸惑いや混乱が表出する子も少なくありません。
そんなときに大切なのは、「分からないことを一緒に理解しようとする大人のまなざし」です。変化を否定せず、安心できる日課と関係性の中で、少しずつ社会とのつながりや自己理解を育んでいきます。
■ 中学部の学習の特徴
中学部では、小学部で育ててきた「生活の力」をもとに、より実践的で社会的な学びへと移行していきます。
その特徴は次の3点です:
- 教科学習の継続と発展
- 作業学習の本格的な導入
- 自己決定・自己表現の機会の拡大
■ 教科学習:生活に結びつく学びへ
「ことば」「数」「音楽」「図工」「体育」などの教科学習は、小学部と同様に継続されますが、より実生活と結びついた内容へと発展していきます。
たとえば、
- 「国語」では、自分の気持ちを文章で表現したり、掲示物や案内表示を読む練習
- 「数学」では、お金の計算や時刻の読み方、買い物の計画づくり
- 「音楽」や「図工」では、創作活動に自分の意思や好みを反映させる
- 「体育」では、チーム活動や集団ルールを意識した運動
「どうすれば伝わる?」「このやり方で合っている?」といった試行錯誤を通じて、自分で考える力も養われていきます。
■ 作業学習:働く体験の入り口
中学部から本格的に始まるのが「作業学習」です。これは、働くことへの理解と関心を育てる授業であり、子どもたちの将来の進路や生き方に直結する大切な学びです。
作業学習には次のような分野があります:
- 農園芸:土づくり、種まき、水やり、収穫
- 木工:釘打ち、やすりがけ、製品づくり
- 手工芸:布のカット、縫製、ビーズ作業など
- 清掃:掃き掃除、モップがけ、トイレ掃除など
それぞれの分野には、手順を守る力、集中力、協力する姿勢、自分の役割を果たす責任感など、多くの育ちの要素が含まれています。
また、作業を通して「自分はこの仕事が得意」「人に喜ばれると嬉しい」といった自己理解と達成感が得られることも、大きな価値です。
■ 「自己決定」を育てる
中学部では、「自分で決める」経験が意識的に取り入れられます。
たとえば:
- 今日の活動内容を自分で選ぶ
- 作業分野を希望で決める
- 給食の量を申告する
- 学校行事で役割や衣装を決める
知的障害のある子どもにとって、「決めること」は簡単ではありません。選択肢の意味が理解しにくかったり、「本当は嫌でも従ってしまう」こともあります。
だからこそ、「自分の思いを伝えていい」「選び直すこともできる」「失敗しても大丈夫」という安心感の中で、「選ぶ力」「伝える力」「考える力」を時間をかけて育てていくのです。
■ 社会との接点を広げる
中学部では、学校の外に出て社会とかかわる機会も増えていきます。
例として、
- 地域の施設への体験学習(図書館、スーパー、公園など)
- 職場見学(福祉施設、作業所、農園など)
- 販売学習(学校で作った製品をバザーや行事で販売)
社会とかかわる体験は、「働くこと」や「人とつながること」への関心を高めるだけでなく、自分の行動が人の役に立つという自己有用感も育ててくれます。
■ 思春期特有の悩みに向き合う
中学部では、性の問題、身体の悩み、人間関係のトラブルなど、思春期ならではの相談や支援も重要になります。
知的障害のある子どもたちにとって、性の変化や感情の扱いはときに混乱のもとになります。自分の気持ちがわからない、相手との距離感がつかめない、社会的なルールが理解できない――こうした場面で、本人の視点に立ったわかりやすい支援が必要です。
性教育も含めた人間関係の学習では、
- 体の変化を絵や動画で知る
- プライベートゾーンの理解
- NOを言う・言われる練習
- SNSやスマホとの関わり方
などを段階的に学びます。
■ 学校行事を「自分ごと」に
中学部の学校行事では、本人の役割や責任が大きくなります。文化祭や運動会、宿泊学習などの中で、自分の出番や準備、チームの一員としての動き方を考えることが求められます。
とくに人気なのが「宿泊学習」です。家を離れて友だちや先生と一緒に過ごす経験は、子どもたちにとっても大きな冒険です。
・布団を自分で敷く ・友だちとお風呂に入る ・食事を配膳する ・夜のイベントで盛り上がる
一つひとつの経験が、「自分でできた」という達成感につながっていきます。
■ 中学部の3年間で育つもの
中学部の3年間で、子どもたちが少しずつ身につけていくのは、次のような力です:
- 自分の気持ちを理解し、表現する力
- 他者と関わり、協力する力
- 働くことに興味をもち、責任をもつ力
- 日々の生活を整え、自立に向かう力
一人ひとりの成長のスピードは違っても、すべての子どもが「今の自分なりの一歩」を大切にしながら、自分の未来を描き始める時期です。
■ 家庭との連携もより深く
この時期は、保護者とのやりとりも多くなります。「反抗期で言うことを聞かなくなった」「家での様子が変わってきた」など、思春期ならではの悩みや戸惑いを共有しながら、支援の方向性を一緒に考える機会が増えていきます。
三者懇談や進路説明会、作業学習の見学などを通じて、家庭と学校が同じ方向を向いて子どもを支えることが、中学部ではとても大切になります。
■ 次回予告
次回は、「第4回:高等部で見据える『卒業後の暮らしと仕事』」をテーマに、進路選択や社会参加に向けた支援のあり方をご紹介します。
自分で働き、地域で生きていく。その第一歩を支える高等部の学びとは? ぜひ続けてご覧ください。