小学部の生活と学びの特徴 〜「できた」が育つ6年間〜
特別支援学校の小学部は、6歳から12歳の子どもたちが在籍する、学校生活のはじまりのステージです。
この時期に育まれるものは、単なる学力以上の「生活の力」や「人との関わり方」。知的障害のある子どもたち一人ひとりが、自分のペースで、安心できる環境の中で、「できた!」を積み重ねていく6年間です。
今回は、特別支援学校の小学部における生活と学びの特徴を、教員の視点からお伝えします。
■ 入学は「集団生活の第一歩」
小学部の入学は、子どもにとって「家庭から社会への第一歩」となる大きな転機です。就学前まで療育施設や保育園・幼稚園に通っていた子もいれば、自宅で過ごしていた子もいます。
そのため、入学直後から学習を本格的に始めるのではなく、「学校という場所に慣れる」「先生や友だちと関わる」「1日の流れを知る」ことから支援が始まります。
たとえば、
- 登校後の靴の履き替えや、カバンの始末
- トイレの場所や使い方に慣れる
- 時間ごとの活動の切り替えを体験する
こうしたひとつひとつが、「集団の中で過ごす力」を少しずつ育てる大切なステップになります。
■ 日課の流れに込められた「育ちの仕掛け」
小学部の子どもたちは、1日を通して比較的安定した「日課(にっか)」に沿って過ごします。毎日同じようなスケジュールを繰り返すことで、「先の見通しがもてる」「活動の切り替えがしやすい」「安心して取り組める」といった環境が整えられています。
典型的な1日の流れは次のようなものです:
- 登校:スクールバスや保護者送迎で登校
- 朝の会:日付・天気の確認、健康チェック
- 午前の活動:生活単元学習・教科学習・個別課題
- 給食・休み時間:食事の練習や自由遊び
- 午後の活動:音楽・体育・図工など
- 帰りの会:1日の振り返りと絵本など
- 下校:バスや保護者と一緒に帰宅
この流れの中に、さまざまな「育ちのしかけ」が丁寧に織り込まれています。
■ 教科学習も大切な毎日の取り組み
小学部では「生活」に関わる学習が多く取り入れられますが、それと並行して、一般の小学校と同じように「教科学習」も日々行われています。
特別支援学校も義務教育の学校です。学習指導要領に基づき、子どもの実態に応じて「ことば(国語)」「かず(算数)」「音楽」「図画工作」「体育」などの教科の学びが計画され、個別の指導計画に沿って無理なく実施されます。
たとえば、
- 「ことば」の学習では、自分の名前を読む・ひらがなをなぞる・絵と文字を結びつける活動
- 「数」の学習では、ブロックや具体物を使って数の概念をつかむ・並べる・数える
- 「図工」では、感覚を楽しみながらの表現活動(ぬたくり、ちぎり絵、粘土など)
- 「体育」では、歩く・走る・ボールを投げるなどの基礎的な運動
- 「音楽」では、歌う・楽器を鳴らす・リズムに合わせて動く活動
教科指導では、「できる・できない」よりも、自分なりの表現・理解・達成感を大切にしています。子どもが「分かった」「できた」「楽しい」と感じられるように、教材や支援の工夫が随所に盛り込まれています。
■ 生活単元学習とは?
生活単元学習は、教科横断的な形で日常生活に必要な力を育てる授業です。小学部では特に大切にされており、子どもが興味をもって取り組めるよう、生活に根ざしたテーマが設定されます。
たとえば、
- 「カレーをつくろう」:材料を洗う・切る・煮る・食べる・片付ける
- 「買い物に行こう」:お金のやりとり・公共マナー・物の選び方
- 「朝のしたくをしよう」:洗顔・着替え・ランドセルの準備
- 「こうつうあんぜん」:信号・横断歩道の使い方・歩く練習
生活単元学習は、教科学習で得た知識や技能を「実際の生活の中で使ってみる」場でもあり、教科と生活がつながり合う学びを実現しています。
■ 自立活動と個別の支援
もう一つの大きな柱が「自立活動」です。これは、知的障害のある子どもが日常生活を送る上で土台となる「からだ・こころ・社会性」を育てるための個別支援の時間です。
たとえば、
- 手先の操作練習(洗濯ばさみ、型はめ、つまむ)
- 体幹やバランス感覚を育てる運動(平均台、トランポリン)
- 音・光・触覚などの感覚刺激に慣れる感覚統合活動
- コミュニケーションの土台を育てる(視線、模倣、やりとり)
自立活動は、教員や専門職(言語聴覚士、理学療法士など)が協働して、一人ひとりの成長課題に丁寧にアプローチする支援です。
■ 人と関わることが「学び」になる
小学部では、子どもたちが「人と関わる」経験がとても大切にされます。知的障害や発達に課題のある子どもは、ことばによる表現や感情のコントロールに困難があることもあります。
そのため、
- あいさつを返す
- 相手の名前を呼ぶ
- 先生の声かけに応じる
- 友だちと一緒に遊ぶ
といったやりとりを、毎日の生活や遊びの中で少しずつ育てていきます。ことばが使えない子も、絵カード、ジェスチャー、AAC(補助代替コミュニケーション)を通して「伝え合う力」を身につけていきます。
■ 子どもたちの「できた!」が育つ瞬間
ある日、朝の会で「今日の天気は?」と先生が聞くと、それまで無反応だった子が、静かに「くもり」のカードを指差しました。
別の日には、トイレ誘導でいつも泣いていた子が、自分からスリッパを履いてトイレまで歩き出しました。
そんな一つひとつの「できた!」に、教職員はいつも心を動かされます。
本人にとっても、保護者にとっても、そして支援する大人にとっても、小さな一歩が大きな希望になる——それが、特別支援学校の小学部の現場です。
■ 家庭とともに歩む6年間
支援学校では、家庭との連携が不可欠です。連絡帳でのやりとり、家庭訪問、個人面談、保護者会、オープンスクールなどを通して、学校と家庭が情報を共有しながら子どもを支えていきます。
「先生、うちの子がこんなことできたんです!」
「お家でも、あいさつができるようになってきました」
そんな言葉を保護者から聞けたとき、私たち教職員もまた、胸が熱くなります。
■ 「その子なりの育ち」を大切に
支援学校の小学部では、一般的な評価基準や成績だけでは測れない、「その子なりの育ち」を大切にしています。
できたことはもちろん、失敗した経験も、表現がうまくいかない日も、すべてがその子の大切な学びです。
子どもが「自分らしく過ごせる場所」として、安心して学べるよう、日々工夫と対話を重ねながら支援に取り組んでいます。
■ 次回予告
「中学部で育てる『社会性』と『自己決定』」をテーマに、思春期にさしかかる子どもたちの支援や、作業学習との関わり、子ども自身の意志を育む取り組みについてもまたご紹介します。
自分で考えて、自分で選ぶ——そんな力が芽生える中学部の学びを、ぜひご覧ください。