高等部で見据える「卒業後の暮らしと仕事」 〜“その子に合わせた学び”がつながる3年間〜
特別支援学校高等部(15歳〜18歳)は、卒業後の暮らしや働き方を見据えて、子ども一人ひとりに応じた学びが展開される3年間です。
ここで育てられるのは、生活の中で「自分らしく過ごす力」から、「社会とつながる準備」「働くことの実感」まで。学習内容は個々の実態に合わせて段階的・多様に設定されており、「できるところからじっくり」「少しずつ挑戦する」支援が行われます。
■ 個々に応じた学びと支援のデザイン
高等部では、生徒の発達や希望に応じて学習内容や目標が柔軟に設定されます。基本的なライフスキルを土台にしながら、個々の実態に応じて、より社会的な学びや仕事への準備につなげていく流れです。
たとえば、ある生徒には「安定した日中活動と安心できる人との関係づくり」が中心となり、別の生徒には「職場体験や金銭のやりとり」などの経験が含まれる、といった具合です。どちらも本人の生活にとって不可欠な学びであり、それぞれに意味があります。
つまり、高等部に通うすべての生徒が「等しく学べる」というより、「その子の持っている力を生かして、次の一歩を歩めるように支える」という姿勢が貫かれています。
■ 主な学習の三つの柱
高等部の学びは、次の3つの柱で構成されます:
- 日常生活に根ざした教科学習
- 働くことに結びつく作業的な経験(作業学習)
- 進路を考えるキャリア教育や自己理解活動
これらはそれぞれ独立した内容ではなく、日々の時間の中で緊密に結びつき、「暮らしと仕事をつなぐ目的をもった学び」として計画されます。
■ 日常生活に根ざした教科学習
教科学習(国語・数学・音楽・体育など)は、高等部でも継続される重要な柱です。
ただし単純な学力習得ではなく、「日々の暮らしや準備の中で役立つ内容」にアレンジされます。たとえば:
- 読み書き:掲示・案内文を読む、自分の名前を書ける
- 計算:お釣りの計算や数の実感を伴う金銭のやりとり
- 表現・運動:音楽や身体を使った表現で自己表出やリフレッシュ
これらの学びは、「暮らしや仕事のヒントを教科の中に見いだす」実践型の知識として提供されます。
■ 作業学習:職業的な感覚への橋渡し
作業学習は、高等部でより具体的に「働くこと」を意識して取り組む時間です。
ここでは、ある生徒はシンプルな作業環境(簡易な作業や手順に合った活動)から始め、別の生徒は企業受注に近い環境で納期や品質を意識する経験もします。目的や内容は異なれど、どちらも「自分の役割を果たす経験」であり、それぞれが意味ある学びです。
具体例:
- 製品の組み立て・袋詰めなど、手順を守って進める作業
- 清掃や配膳など、環境の整備や他者への配慮を含む作業
- 農園芸仕事:水やり、収穫、出荷準備など自然と接しながらの作業
作業学習は、単なるスキル習得ではなく、「協力する心」「手順を守る態度」「努力をやり切る喜び」を育む学びの場です。
■ 進路学習とキャリア教育:自分の未来を見つめる
キャリア教育や進路学習では、生徒が自分自身と向き合い、「将来どんな暮らし・働き方をしたいか」を一緒に考えていきます。
例えば:
- 自己紹介カードや「得意・苦手マップ」を使って、自分の特性を整理する
- 進路面談や三者懇談で、家庭と情報を共有しながら進路を考える
- 校内実習や職場見学を通じて、働く場や生活の場に触れる
ここでも、「できる経験」と「考える経験」を重ねていく中で、自分の未来に向かう力を培います。
■ 暮らす力を支える生活スキル学習
高等部では、暮らしを支えるための生活スキルも日々の学びに含まれます:
- 身辺自立(日課の準備、食事・排泄・着替え)
- 調理・掃除・整理整頓・ゴミ出しなど
- 買い物・金銭管理・公共交通利用の練習
- 健康管理(服薬・検診の理解)や自己管理習慣の形成
生徒が地域でより自立した生活を営むための基盤を、実際の場面や模擬環境で身につけていきます。
■ 対人スキルとセルフアドボカシーの育成
社会の中で安心して生きるためには、対人スキルや自己主張の力も大切です。高等部では、教室・職場実習・校外活動などを通して、人との関わり方を学びます。
例:
- 挨拶・報告・相談を伝える練習
- 場に応じた言葉づかいや態度を意識する
- 困ったときの助け方や「NOを言う」練習
また、セルフアドボカシー教育を通じて、自分の権利を伝える方法を学ぶことも支援の柱です。
■ 保護者とともに作る進路の道筋
進路を選ぶうえで、保護者との連携は欠かせません。学校では、家庭と一緒に進路を探りながら、情報を共有し、支援の形を整えます。
活動例:
- 卒業生の事例紹介や進路説明会
- 福祉サービスや就労支援制度の情報提供
- 実習先の同行見学や相談会参加
こうした取り組みを通じて、本人・家庭・学校が三位一体となって、「その子らしい選択」ができるよう支えます。
■ 高等部で育つ力を振り返る
高等部の3年間で育まれる力は、多様な形で現れます:
- 生活スキルと日中の過ごし方を支える力
- 働くことへの関心と、小さな成功体験から得る自信
- 自分の特性を知り、伝える力
- 他者と関わりながら協働する姿勢やルール感
大切なのは、どんな内容であれ、「その子のペースで進めること」「続けられること」「自分の暮らしにつながる経験」である点です。
■ 次回
次回は、「特別支援学校卒業後の暮らしと地域とのつながり」についてお届けします。
卒業後に必要な支援・生活の工夫・地域との協働などを通して、学校と地域とが共に支える仕組みをご紹介します。