強度行動障害のあるお子さんと日々向き合う家庭では、外からは見えない努力と、計り知れない葛藤があります。
支援の専門家たちが「家庭こそ最大の支援者」と言うのは、その大変さがわかっているからです。

今回は、家庭で取り組める支援の工夫と、「もう限界かもしれない」と感じたときに使えるサポートについて、実践的にまとめました。




◆ 家庭は“安心の基地”。最優先は「落ち着いて過ごせる仕組み」

強度行動障害の支援では、家庭が本人にとっての「安心の基地」になります。
学校や事業所で緊張が続いても、家で安心して過ごせることで力が回復し、生活全体が安定しやすくなります。

まず最優先に考えたいのは、「安心して落ち着ける環境をつくること」です。


● ① 「好き」と「落ち着く」を増やす

本人が心地よいと感じるものを、できるだけ家の中に取り入れてみましょう。

  • 落ち着ける照明(明るすぎない光)
  • いつも聴いている音楽
  • 一人でこもれるスペース(テント・布で囲うなど)
  • 触って安心できるアイテム
  • 一定の温度や香り

「落ち着くもの」がひとつでも増えるだけで、行動の爆発が起きにくくなることがあります。


● ② 見通しを示す(予定の“見える化”)

家庭でも、見通しがあるだけで不安は大幅に減ります

たとえば、

  • 今日の流れをホワイトボードに書く
  • イラストや写真でスケジュールを提示する
  • 「あと5分で終わり」と具体的に伝える

たったこれだけでも、「急な変化」に弱いお子さんのストレスを減らすことができます。


● ③ 刺激を減らす(とくに感覚過敏のある場合)

  • テレビの音や生活音を小さくする
  • 苦手な素材の服を避ける
  • 匂いの強い柔軟剤や洗剤を控える
  • 照明をLEDから柔らかい光に変える

「本人にとっての刺激」をひとつ減らせるだけで、行動の頻度が落ち着くこともあります。




◆ 家庭での“行動対応”は、「叱る」よりも「整える」


強度行動障害のある子どもにとって、叱られることはほとんど効果がありません。
なぜなら、多くの場合、

行動=困っているサイン

だからです。

叱って行動を止めるのではなく、行動を必要としない環境を整えることが大切です。


● ①「これは困ったね、一緒に考えよう」の姿勢

本人が落ち着かないときは、

「ダメ!」ではなく、
「どうした?困ってるね」

という姿勢が効果的です。
本人は“怒られている”と感じるより、“理解されている”と感じることで行動が落ち着きやすくなります。


● ② “やってほしい行動”に注目する

困った行動を消すのではなく、代わりにできる行動(代替行動)を増やします。

  • 叩いてしまう → クッションを叩くように促す
  • 叫んでしまう → 落ち着く音楽へ切り替える
  • 物を壊す → 丈夫な感覚玩具を渡す

行動は「消すより置き換える」ほうが圧倒的に成功しやすいのです。




◆ “暴発”しそうなときの家庭での対処

行動の爆発が起こる前には、前兆(サイン)があることが多いです。

● 前兆の例

  • 体を揺らしはじめる
  • うろうろ動き出す
  • 鼻を押さえる・耳をふさぐ
  • 言葉や声の調子が変わる
  • 大好きなものに手を伸ばさなくなる

このタイミングでの対応が最も効果的です。


● 対応の例

  • 静かな部屋に移動する
  • 落ち着くアイテムを渡す
  • 水を飲む・深呼吸を促す
  • お気に入りの音楽に切り替える
  • 触覚刺激(重み・深圧)を適度に使う

前兆の段階で“落ち着く方向へ”舵を切ると、爆発そのものを防げることがあります。




◆ 限界を感じるのは、あなたが弱いからではない

家庭では、24時間支援が続きます。
学校や事業所とは違い、交代も休憩もありません。

だからこそ、「限界を感じる」のは自然なことなのです。

疲れ、寝不足、不安、孤独―― これらが積み重なると、ちょっとしたことで心が折れそうになります。

支援者の立場から言わせていただくと、

「家族が一人で抱え込む」ことこそが最大のリスク

です。

家庭が疲れ切ってしまうと、本人の生活も崩れてしまう。 だからこそ、家族を支えることは本人を支えることと同じなのです。




◆ 使える支援サービスを「遠慮なく」使ってほしい

家庭の負担を減らすために、地域には多くのサービスがあります。 しかし、実際には「どれを使っていいのかわからない」「使うのが申し訳ない」と悩む家族は少なくありません。

ここでは、家庭で限界を感じる前に使える主な支援を整理します。


● ① 児童発達支援・放課後等デイサービス

平日・放課後に利用でき、本人の安心できる時間を増やし、家庭の休息時間を確保できます。


● ② 居宅介護・行動援護(ヘルパー)

自宅に支援者が訪問してくれます。
外出の支援や、安全確保、行動理解の専門的な支援も可能です。


● ③ ショートステイ

「家での生活が回らない」「介護疲れが限界」というときに利用し、安心して休息が取れます。
強度行動障害に対応できる施設も増えています。


● ④ 相談支援専門員

家庭の悩みに寄り添い、適切なサービスにつなげてくれるキーパーソン。
サービス調整の中心となる存在です。


● ⑤ 医療機関(精神科・発達外来)

睡眠障害・てんかん・不安症などの医療的な背景が行動に影響している場合、迅速に対応できます。
薬の調整で“生活が安定する”ケースは決して少なくありません。



これらのサービスは「頼ったら負け」ではありません。 むしろ、賢く使うことが本人と家族の生活を守る鍵です。




◆ 家族が“休む権利”は、絶対にある

強度行動障害のあるお子さんの子育てでは、 「休むなんて申し訳ない」 「自分が頑張らなくちゃ」 と考える保護者が非常に多くいます。

でも、支援現場の専門家の共通理解として――


家族の休息は、支援の一部である


という考え方があります。


家族が倒れないために、疲れ切らないために、 計画的に“休める仕組み”を家庭に組み込むことが必要です。


・ショートステイの定期利用 

 ・休日だけのヘルパー 

 ・家族で交代して休む 

 ・民間サービスを利用する


これらは“甘え”でも“手抜き”でもありません。 生活を保つための大切な手段です。




◆ まとめ

家庭での支援は、誰よりも身近で、誰よりも困難です。 しかし、家庭が支援のすべてを背負う必要はありません。

今回のポイントをまとめると――


  • 家庭は「安心の基地」。最優先は落ち着ける環境づくり
  • 行動は叱るのではなく「整える」ことで安定する
  • 行動の前兆を見つけ、早めの対応が効果的
  • 限界を感じるのは自然なことであり、悪いことではない
  • 使える支援サービスを遠慮なく使ってよい
  • 家族の休息は、本人の支援の一部である

家庭がひとりで抱え込まず、地域の支援とつながることで、お子さんの生活も家族の生活も、確実に安定していきます。