強度行動障害のある子どもと暮らすご家庭では、
「家の中だけで抱え込み続けるのは限界…」
「地域に助けを求めたいけれど、どこに相談すればいいかわからない」


と感じる保護者の方も少なくありません。


実際、私自身も特別支援学校で勤務している中で、
「もっと早く相談すればよかった」「地域につながったら生きるのが楽になった」
という言葉を何度も聞いてきました。


今回は、強度行動障害のある子どもと家族が“地域で受けられるサポート”を、できるだけ具体的にまとめました。


制度の名前だけではなく、どんな人がいて何をしてくれるのか・どうつながるのかまで詳しくお伝えします。




1.まず知っておきたい「地域で相談できる3つの窓口」

地域には、多くの保護者が「知らなかった」と言う、けれどとても重要な支援窓口が存在します。


(1)障害児相談支援事業所

福祉サービス利用の際に必ず関わる専門機関です。
サービス利用計画(セルフプラン)を家族と一緒に作り、必要な支援につなぐ役割があります。

  • デイサービスを利用したい
  • 家での困りごとを相談したい
  • 短期入所(ショートステイ)を使いたい

こうした相談の“入口”として最も頼れる存在です。


(2)子ども家庭センター(児童相談所を含む)

「行きづらい」と感じる保護者もいますが、実は
育てにくさ・困り感の相談に最も広く対応できる場所です。

強度行動障害の背景には、
感覚過敏・コミュニケーションの難しさ・医療的な要因などが複雑に関係します。
家庭センターには心理士・福祉職・医師(嘱託)などがいて、行動の背景を多角的に整理してくれます。


(3)特別支援学校・特別支援学級

学校は“教育の場”ですが、強度行動障害に関する知識と経験を持つ教員が多数います。
家庭だけで抱え込むより、学校と連携することで情報量が一気に増え、支援の選択肢も広がります。

「こんなことで相談していいのかな?」という内容こそ伝えてください。
学校は“支援チーム”の一員です。




2.地域で使える福祉サービス一覧(強度行動障害の家庭向け)

ここでは、特に家庭の困り感を軽減するのに役立つサービスを厳選して紹介します。


(1)放課後等デイサービス(放デイ)

学校の放課後や長期休暇に利用できる福祉サービスです。
事業所によっては専門性が高く、行動障害へのアプローチに特化している場所もあります。

  • 感覚過敏への環境調整
  • 構造化されたスケジュール
  • 行動を安定させる余暇支援

(2)日中一時支援

市町村独自の制度で、短時間だけ子どもを預けられるしくみです。
家庭の休息(レスパイト)を目的にしているため、強度行動障害の家庭にとても重要です。


(3)短期入所(ショートステイ)

1泊~数日間の宿泊利用ができる支援で、重度の知的障害・行動障害がある子も多く利用しています。

家族が少し休むことで、長期的に安定して育てていくための大切な仕組みです。


(4)居宅介護・行動援護

家の中での生活をサポートする福祉サービスです。
強度行動障害のある子どもへの行動援護は、国家資格を持つヘルパーが安全に配慮して支援してくれます。


(5)医療型児童発達支援

医療と療育が組み合わされた専門機関です。
医師・看護師・療法士(OT・PT・ST)がチームで関わり、行動の背景を総合的に見てもらえます。




3.家庭での困りごとを地域につなげる「段階モデル」

いざ相談しようと思っても、
「何をどこまで話していいのかわからない」
という保護者はとても多いです。

そこでおすすめなのが、以下の3段階モデルです。


STEP1:困りごとを「できるだけ具体的に」書く

  • どんな行動が起こる?(叩く・大声・逃走など)
  • いつ起こる?(場面・時間・相手)
  • 頻度は?危険性は?

“感情”ではなく“事実”を整理することで、支援者との話がスムーズになります。


STEP2:家庭で試した工夫を書く

  • 声かけの工夫
  • 環境の調整(音・光・モノ)
  • 視覚支援

「やってみたけど難しかった」という情報が、支援に直結します。


STEP3:希望を一言だけ添える

「家での負担を軽くしたい」
「安全に過ごせる方法が知りたい」

これだけで、専門家が支援の方向性を設定しやすくなります。




4.学校・家庭・地域をつなぐ“コーディネーター”の存在


支援は、家庭が単独で抱えるものではありません。
今は多くの自治体で、以下のようなつなぎ役(コーディネーター)が活躍しています。


● 特別支援教育コーディネーター(学校)

学校内外の支援を整理し、家庭・医療・福祉とつなぐ役割を持ちます。


● 地域生活支援コーディネーター(自治体)

地域での生活全般のサポート、親の相談、サービス調整などを行います。


● 保健センターの保健師

幼少期から一貫して家庭を見続ける専門家であり、行動障害の相談も可能です。

「どこにも相談できない」「何から動けばいいかわからない」という時、
まずは“つなぎ役”を探すことが最優先です。




5.地域支援を上手に使うためのポイント

福祉サービスは「使った人が勝ち」ではありません。
大切なのは、家庭がつぶれないこと、そして子どもが安心して暮らせることです。


(1)重くなる前に相談する

強度行動障害は、悪化すると家庭も学校も対応が難しくなります。
小さな困り感の段階で相談するのがベストです。


(2)相談先を“1つだけ”にしない

学校・福祉・医療の三本柱で支援体制を作ると、安定しやすくなります。


(3)サービスの「相性」を大事にする

強度行動障害では、スタッフのスキルや環境との相性が非常に重要です。
合わなければ、別の事業所を検討するのは当たり前のことです。



6.“助けを呼ぶこと”は弱さではない

長年支援に関わってきた立場から言えるのは、
地域に助けを求めた家庭ほど、子どもが安定し、保護者も笑顔が戻るということです。

強度行動障害は「家庭だけの問題」ではありません。
学校・福祉・医療・地域、すべてが関わるべき課題です。

地域の力を活用することは、決して“甘え”ではなく、
子どもの安全と家族の生活を守るための賢い選択です。



おわりに

困り事を抱え込まないでください。
あなたの地域には必ず“つながれる先”があります。
そして支援は、つながった瞬間から動き出します。

家族の負担を少しでも減らし、子どもが安心して暮らせる地域づくりのために、
これからも現場から丁寧に情報を発信していきます。