兄弟達よりだいぶ遅れて大国主命が通りかかります。
海岸で大声を上げて、のた打ち回る生き物を見つけ、何事かと駆け寄ります。
兎「だっ、はっ、痛い、死ぬ。モウだめ」
大国主命は兎を一旦落ち着かせ、話を聞きます。
「私は、この海の向うの隠岐の島に住んでたんですが、いつもこっち側を見て、渡ってみたいなーと思っとったんです。
それで鮫の奴に話しかけまして。鮫さん、あんたの仲間沢山いるようだけど、私の仲間とどっちが多いでしょうねえ?
鮫は、そらワシのが多いに決まっとる!
ほんとですかぁ?じゃここから向こう岸までズラーーて仲間を並べてみてくださいよって言ったんです。
鮫はバカなもんですから、お安い御用だなんて言って、並ぶんですよ。
で、私はその上をぴょんぴょこ渡ってきたんですが、
あんまり作戦が上手くいき、つくづく自分の頭の良さに惚れ惚れしちゃって、あと一匹飛び越えれば岸に着くって時に私つい口が滑っちゃいました。
ヒャッハーッ、おいらは海を渡りたかっただけさー♪バーカバーカ。サメのバーカ♪
鮫の奴は怒ったってそらたいへんな怒りようでもう、ベリベリベリーとひんむかれちゃってこの姿ですよ」
大国主命は呆れて兎の話を聞きましたが、なかなか憎めない兎ではあります。
しかし、兎は自分の兄弟達に騙されて全身ひび割れになったとのこと。これはほっておけません。
大国主命は兎に教えてやります。
傷はまず真水で洗うこと。川が海に流れ込んでいるあたりの、まだ海水にならない、塩を含まない水で体を洗うこと。それからガマ の穂を集めて、その上でゴロンと横になって体を乾かすこと。
ウサギは言われた通り真水で体を洗い、ガマの穂を集めてその上に横たわれます。するとホワホワといい気持ちになってきて、傷の痛みがスーッと消え、眠りに落ちていきました。
目醒めると大国主はまだ見守ってくれてました。自分の体を見ると、ふさふさと白い毛が戻っているのです。
兎「いやーっーほーーなおったぁーー♪うわはっ★」
兎は大喜びで「凄い」「偉い」「最高」と大国主命を讃えまくった後、意外なことを告げます。
兎「実は、私はヤカミ姫の使いのウサギなんです」
「えっ…?」
驚く大国主に兎は語ります。貴方の兄弟たちは絶対にヤカミヒメと結婚できないでしょう。あんなヒドイ人たちはロクな事にならない。あなたこそ、ヤカミヒメと結婚するにふさわしいと。
「がんばってくださいね」
大国主命は急な話でとても信じられませんでしたが、とにかく兄弟たちの後を追って、出発するのでした。
「私はあなた方とは結婚しません。
オオアナムヂと結婚します」
「げえっ!!」
オオアナムヂの八十人の兄たちはようやくヤカミヒメの宮殿にたどりつきました。
そこで優しい言葉でもかけてもらえるかと期待しましたが、
ヤカミヒメから返ってきたのは、思いもかけない言葉でした。
「貴方達の目は腐っています。それは心が腐っているからです!
それに比べてオオアナムジは素直で良い心を持っています。
私はオオアナムジと結婚します」
ヤカミヒメは兄弟が口を開くスキも与えず、
次から次にひどい言葉をあびせかけます。さすがに兄弟たちも凹んできます。
なにか、本当に俺たちはクズなんじゃなかろうかと心配になってきます。
「待て。姫のペースに乗せられてはいけない」
「あんなトロイやつの何がいいってんだ」
「俺なんか、字がうまいんだぞ」
「俺なんか、腕相撲ならだれにも負けないぞ」
「そうだとも。俺たちは、それぞれ取り柄がある。
それにひきかえあのオオアナムジは何だ!
俺たちの荷物を運ぶくらいしか能が無いくせしやがって。
えーいくそいまいましい殺してしまえ!!」
こんな雲行きになってしまい、大国主命にはいくつもの、試練が襲いかかってくるのでした。
その恐ろしい試練とは・・・何だったのでしょうか?
続きは→その11