2000年に公開された映画「花様年華」を4K版で初めて観た。香港映画はあまり関心がないのだが、ランキングに必ず挙がるので気になっていた作品だ。監督はウォン・カーウァイで赤を基調とした映像にグイグイ引き込まれた。クエンティン・タランティーノが絶賛したのもうなずけるストーリー展開である。
何より印象的だったのは劇中で効果的に流れるナット・キング・コールの「キサス・キサス・キサス」だ。映画と一体となった挿入曲というと「カサブランカ」の「As Time Goes By」、「2001年宇宙の旅」の「ツァラトゥストラはかく語りき」、「ゴースト/ニューヨークの幻」の「アンチェインド・メロディ」を思い起こすが、コールの名唱はこの映画のために録音したとしか思えないほど効果的で強烈だった。選曲の見事さに唸る。
コールはジャズのスンダードは元より何を歌っても様になる幅の広さを持つ。例えばジョニー・ハートマンが「カチート」を歌ってもラテン特有の明るさが出ないし、カントリーソングの「キャット・バルー」はバリトン・ヴォイスのアル・ヒブラーには似合わない。ジョー・ウィリアムスがポピュラーソングの「Those Lazy Hazy Crazy Days of Summer」を歌ったら数段暑くなるし、ジミー・スコットなら逆に寒くなるだろう。コールはぞれぞれの歌曲の本来の持ち味を巧みに引き出しているから嫌みがない。
「Quizás, Quizás, Quizás」は英語で「Perhaps, Perhaps, Perhaps」だ。異性に「たぶんね」という答えで曖昧にはぐらかされたことや、「もしかして」とあの時一歩踏み出していたらと忸怩たる経験は誰にでもあるだろう。映画のワンシーンに人生の一コマをはめてみたくなる。
