マイルスが生誕100周年を迎えた今年はジャズ誌を中心に多くの特集が組まれている。その中に晩年の衣装を手がけた佐藤孝信さんが紹介されていた。モード界の常識を打ち破ったデザイナーだけありマイルスしか似合わない配色とマイルスだけが着こなせるデザインが並ぶ。さて、マイルスが服装に拘るようになったのはいつ頃だろうか?

 

 大抵、付き合う女性に影響されることが多いのでジュリエット・グレコか、ルネ・ユルトルジェの姉ジャンヌ、フランシス・テイラーだろうと思っていたのだが、John Szwed著「So What : The Life of Miles Davis」(Simon & Schuster刊)によると57年にアレン・イーガーから服に関してアドバイスされたという。イーガーはビ・バップ・バンドからお呼びがかかる数少ない白人テナー奏者だが、ドリス・デュークやバーバラ・ハットン、ペギー・メロン・ヒッチコックという大富豪の世界をうまく渡り歩くプレイボーイとして有名なミュージシャンだ。

 

 イーガーはヴォーグ誌でイラストを手がけているジョー・ユーラにマイルスを紹介し、彼に似合うスリムなスーツがデザインされた。ここからマイルスはステージでもオフでも衣装を重視するようになったのだろう。当然のようにマイルスに影響され多くのジャズマンの服装が変わっていく。スクエアからヒップになった時代だ。因みに当時ジャガーに乗っていたマイルスにフェラーリを薦め、ギアの入れ方からスポーツカーの運転の仕方まで教えたのもイーガーである。

 

 数あるアルバムから「The Musings Of Miles」を取り出した。ワンホーンである。ガーランド、ペティフォード、フィリー・ジョーをバックに活き活きとしたフレーズが泉の如くあふれてくる。文字が一切ないポートレート写真だけのカバーは芸術だ。涼しげなシアサッカージャケットにハンチング帽を被ったマイルス。録音は55年。マイルスは既に十分に粋でお洒落だ。