ロリンズの訃報を知った。しばし時間が止まる。ジャズに出会った60年ほど前に想いを巡らす。サキコロを初めて聴いた時の衝撃は忘れない。これがジャズで、これがアドリブなのかと。セント・トーマスとモリタートは、ジャズ入門書のアドリブとはテーマ云々という長いくだりをワンフレーズで教えてくれた。

 

 田舎のジャズ喫茶もどきにあったのはこの大名盤とヴァンガードとリリースされて間もないアルフィーの3枚だけだったが、プチノイズが入る場所を覚えるほど聴き込んだ。週に一、二度だが高校の授業が終わると駆け込み、夕食までの3時間ほど粘る。BGMにジャズを低く流している店なので、マスターがトイレに立つとカウンターから手を伸ばし勝手にボリュームを上げた。ここはジャズ喫茶ではないぞと怒られ、早く帰って宿題でもしろと叱られた日々が懐かしい。

 

 東京で本格的ジャズ鑑賞店に通うようになってから、サキコロの裏ジャケットに写真が載っている「Tenor Madness」、「Plus 4」、「Moving Out」、「Collectors' Items」、「Dig」を聴いた。見慣れたジャケットからようやく音が出たのだ。期待通りである。次いでブルーノート、コンテンポラリー、RCA、インパルスを揃え、マイルストーンから「Road Shows」までリアルタイムで聴いた。いつの時代もロリンズ節は変わらない。ジャズを聴き始めの人にアドリブとは何かと訊かれたら、ロリンズを聴けと答える。

 

 2007年の映画「最高の人生の見つけ方」を観たときに、思い立ってバケットリストを作った。他愛のない項目ばかりなのでほとんど消えたが、「モヒカン刈りにする」はまだである。テナー・タイタン、2026年5月25日没。享年95歳。合掌。今もどこかでサキコロがかかっているだろう。