映画「ブルームーン」を観た。パーティの夜、長年タッグを組んできた作曲家リチャード・ロジャースから決別を突きつけられる作詞家ロレンツ・ハートの話である。ハートに扮するのは「ブルーに生まれついて」でチェット・ベイカーの雰囲気を見事に演じたイーサン・ホークだ。ネタバレになるので多くは書けないが、リチャード・リンクレイター監督の会話劇に引き込まれた。
ひねった詞の「My Funny Valentine」、アルコール中毒のハートは酩酊で前後不覚になることがよくあったそうで、その弁解ともとれる「I Didn't Know What Time It Was」、この時期に思わず口ずさみたくなる「Spring is Here」、人ではなく恋愛そのものに憧れる愚かさを歌った「Falling in Love with Love」、恋に落ちる兆しや美しい情景を描いた歌詞で、映画「麗しのサブリナ」で効果的に流れる「Isn't It Romantic」、月や青い海、秘密の隠れ道、スペインのお城のような美しいものがあってもあなた以外には要らないと結ぶ「My romance」。勿論、映画でも流れる。
そして、♪Blue moon ,You saw me standing alone ,Without a dream in my heart・・・孤独な主人公が運命の人に出会うハッピーエンドの歌でエルヴィス・プレスリーやボブ・ディランもカバーするヒット曲だ。ジャズ畑ではビリーやエラの名唱もあるが、アルバムタイトルにしているカーメン・マクレイを聴いてみよう。カーメンといえば自身の弾き語りやレイ・ブライアントをバックにじっくり歌うイメージが強いが、このアルバムではタッド・ダメロン率いるオーケストラをバックに力強く歌い上げる。デッカ時代の名品に挙げたい。
コンビ解消の理由はハートの深酒による仕事の遅れである。映画ではショットグラスを一気に空け、機知に富んだ台詞で笑わせる。ハートが亡くなったのはこのパーティから8ヶ月後のことだ。酒が寿命を縮めたがアイデアはウィスキーボトルの中から生まれたのだろう。ロジャース&ハートがいなければアメリカン・スタンダードは寂しかったに違いない。
