先週の続きになるが、中古レコード店の新着コーナーに置かれるのは入荷状況によって差はあるもののせいぜい1週間ぐらいだ。その後はジャンル別の箱に移される。どの箱に置くのかは店主の主観による。大抵のお客さんは好みのジャンルしか見ないので、探しているレコードが違う箱に入っていると頻繁に通っていても探すことができない。逆に全く知らないアルバムに出会うチャンスもある。

 ブルーノートやマイルスなら迷うことはないが、例えばこの「Moods In Jazz」はどうする?タイトルに「Jazz」が付いているのでジャズの箱だろう。否、ジャケットから言えばムードミュージックだ。いやいや、中味度外視のジャケ買いのコーナーだ、と迷う。あくまでも店主がこのレコードを初めて扱ったというケースだ。ディスクの状態は目視で点検したが、店も暇なので試しに聴いてみよう。トップはアップテンポの「Taking A Chance On Love」で、つい音量を上げたくなるほど軽快にスウィングする。心地良いピアノがその流れで2曲続き、エリントンの「Prelude To A Kiss」だ。バラードはきめ細かい。

 ついでにB面も聴いてみる。トップは「You Leave Me Breathless」だ。「ベルリン特急」や「麗しのサブリナ」、「俺たちは天使じゃない」等、多くの映画音楽を手掛けたフレデリック・ホランダーの名品である。曲名を見るだけでミルト・ジャクソンの一気に空間が広がるヴァイヴのイントロからフランク・ウェスのあのむせび泣くテナー、いやフルートが聴こえてきた方もおられるだろう。奇しくもB面頭だ。肝心のバド・ラヴィンといえば甘いバラードということもありカクテルピアノの趣きではあるが、アニタ・オデイやピンキー・ウィンターズの歌伴で鳴らしただけあり良く歌う。さて貴方ならどのジャンルに入れる?

 ある店で美空ひばりの「ひばりジャズを歌う」が歌謡曲のコーナーに入っていた。見開きジャケットのコロムビア・オリジナル盤だ。また、チェット・ベイカーとバド・シャンクのWorld Pacific青ラベル「The James Dean Story」や、「死刑台のエレベーター」のフランス盤が映画音楽の箱に無造作に置かれていたり、クイーンのUKオリジナル盤、「Jazz」がアイク・ケベックとポール・クイニシェットの間に挟まっていたこともある。但し価格はどの箱に入っていようとそれなりである。店主も抜け目がない。