
ECMやヴィーナスといったレーベルのピアノの音が心地良いリスナーは50年代に活躍したピアニストを聴かないようだが、7月16日に亡くなったクロード・ウィリアムソンは白人三大バップ・ピアニストの一人であることを知らない世代にも人気がある。妙中俊哉氏の尽力で15年間のブランクをはさんで77年に復帰したときは、柔なピアノやフュージョンが全盛の時代に新鮮に響いた。
78年の「クレオパトラの夢」はバド・パウエルを聴いたことがない耳には衝撃だったろう。90年代のヴィーナス・レコードの作品は他のヴィーナス・ピアノ同様、金太郎飴だがそれでもバップのエッセンスを汲み取れる。復帰以降も好評とはいえ、60年代から70年代にかけてジャズ喫茶で過ごしてきた世代にはさすがに物足りない。70年代に50年代の音やスタイルで演奏することは時代遅れであることは確かだし、セールありきのアルバム制作であれば時代の流れに乗るのも致し方ないが、50年代に活躍したバップ・ピアニストだからこそ頑なにそのスタイルを貫いて欲しかった。
それと言うのもこのベツレヘム盤があまりにも素晴らしいからだ。録音した56年当時、ウエスト最強だったレッド・ミッチェルとメル・ルイスと組んだ作品で、タイトル曲をはじめ「Stella By Starlight」、「Somebody Loves Me」、「The Surrey With The Fringe On Top」、そして「Love Is Here To Stay」、選曲のセンスも光る。非凡なメロディーラインの構築、機知に富んだアドリブ、三人が輪になった統一感、そのどれもが一級品といっていい。誰でもが弾くスタンダードは個性が強く反映されるが、ウィリアムソンの解釈はバップ・ピアニストの誇りがダイレクトに響いてくる。
かつてウィリアムソンは、「白いパウエル」と揶揄された。おそらく黒人ジャズ至上主義者が言ったのだろう。音楽に限らず芸術は憧れるアーティストを模倣することから始まる。真似だけのプレイヤーは消えてゆくが、そこから自分のスタイルを見付けた人だけが一流になれる。ベツレヘム盤「'Round Midnight」は、ジャズ喫茶でパウエルよりもリクエストが多かった。享年89歳。トリオ名盤は死なず。