今年2月から各地で順次上映されている映画「レッキング・クルー 伝説のミュージシャンたち」がようやく札幌で掛かった。60年代から70年代にかけて数多くのヒット曲を手がけたセッション・プレイヤー集団にスポットを当てたドキュメンタリー作品だ。シナトラやプレスリー、ビーチ・ボーイズ、ママス&パパス、サイモン&ガーファンクルらのヒット曲が録音される過程は興味深い。

 レコード・ジャケットに写真がアップされ、テレビで歌うアーティストはスタジオで録音をすることはなく、超が付くテクニックを持ったミュージシャンが代りにプレイをしていた。この驚愕は2009年5月の拙稿で鶴岡雄二さんの著書「急がば廻れ’99」を元に話題にしたが、それを裏付けする内容だ。その影武者の仕事ぶりが凄い。ギタリスト、トミー・テデスコの手帳は早朝から深夜までスタジオの移動だ。ドラマーのハル・ブレインは仕事を受けた数ではなく断った数で人気度がわかるという。女流ベーシストのキャロル・ケイは大統領より稼ぎがあったと豪快に笑っていた。

 クルーのなかに「ピンク・パンサー」のテナー・ソロで有名なプラス・ジョンソンもいる。バップを演奏していたが泣かず飛ばずで縁があってキャピトル・レコードの専属になった。この人も忙しい。キャピトル・タワーと呼ばれる本社ビルに缶詰状態だ。シナトラは勿論のことナット・キング・コールやペギー・リー、ディーン・マーティンといった専属シンガーのほとんどの録音でバックを務めている。59年のリーダー作「This Must Be the Plas」も勿論キャピトルからのリリースで、シンガーが心地よく歌えるイントネーションと間は絶妙だ。「If I Had You」ではバリトンを吹いているのだが、適度な湿り気のある音色はリラックス効果がある。大物シンガーが欲しがるわけだ。

 曲がヒットするにはキャッチーなメロディー、それを歌うシンガーの魅力が不可欠だが、この作品を観るとバックの大きさがよくわかる。特にイントロが重要で、僅か数秒でビルボードにチャートインするか否かが決まる。クルーはそこに持っているアイデアの全てを注ぎ込むのだ。これを知って聴き直してみると目から鱗だ。それ相応のギャラは貰っているとはいえレコードジャケットに一切彼らのクレジットはない。