「この曲はミュート・コントロールが絶品のマイルスでしょう。今年1月に亡くなった中山康樹氏の言葉を借りるなら、ク~ッたまらん!」、「いや、ドーハムの柔らかくて優しい音に軍配が上がる。Old Folks と呼ばれるのは南北戦争を経験した昔気質の頑固な世代でね。その古き善きアメリカの空気感を出しているじゃないか」、「後半、倍テンポでそのままアドリブに突入するかと思いきやモブレーにバトンタッチだ。このスリリングな展開こそジャズの醍醐味だよ」

 「歌物はワンホーンで演奏してこそ魅力を最大限に引き出せるものさ。誰にも邪魔されず自分を表現できる。それにシンガーを盛り立てるようなフラナガンのバックアップが見事だ。ドーハムはトランぺッターというよりここでは詩人というシンガーだね」、「ピアノといえばこちらはケリーだ。マイルスのミュートは卵の殻の上を歩くようなと形容されるけれど、その殻が割れないように支えているのがケリーさ」。どうにもケリが付かないが、ともに名演だ。「A Cottage for Sale」や「ベッドで煙草を吸わないで」で知られるウィラード・ロビンソンが1938年に作った曲で、故郷を懐かしむようなしみじみとした味わいがある。

 ウェブスターやマクリーン、グリーン、それぞれの楽器で名演があるが、ピアノならジェリ・アレンを挙げたい。M-BASE派の才媛で、ピッツバーグ大学で博士号を取得した論文は、エリック・ドルフィーの研究というから驚く。1980年代半ばにデビューしたころは理論が優先するスタイルだったが、徐々に表現力を増してきた。1994年に録音されたこの「Twenty One」は、ロン・カーターにトニー・ウイリアムスという当時の重鎮といえるメンバーで、この意外性がアルバムを面白くしているし、スタイルや理論、新旧、経験の違いから生まれる緊張が聴きなれた曲を斬新なものにしている。スタンダードは新風を吹き込まれることで伝承されるのだ。

 1970年前後のジャズ喫茶全盛期には、大音量のなか店の片隅で先のような議論がよく交わされた。やれヨーロッパ・フリーはどうの、電化マイルスはどうのとリスナー間やジャズ誌上で熱い意見が飛び交ったものだ。残念ながら今のジャズは熱く語るほど革命的ではないし、ジャズはオシャレと言ってファッションで聴く今の世代から論争は持ち上がらないだろう。Old Folks とはあのジャズが熱かった時代に確固たるジャズ論を持っていた人たちかも知れない。