ロバート・デ・ニーロが出演した映画は「タクシードライバー」や「ニューヨーク・ニューヨーク」等、70年代に公開された作品と、最近の「アメリカン・ハッスル」しか観ていないのでファンとは言えないが、新作が上映されると気になる。先日封切られた「マイ・インターン」も監督はナンシー・マイヤーズと聞いてストーリーも察しが付くが、ポスターの好々爺然とした笑顔に惹かれ映画館に足を運んだ。ヒロインのアン・ハサウェイが人気なのか、若い世代で客席は埋まっている。

 人生経験豊富なデ・ニーロが、ハサウェイ扮するアパレル会社の若い経営者にアドバイスを与えながら友情を育む内容だ。劇中、フェイスブックの登録をするシーンがあり、ハサウェイが「好きな音楽は?」とデ・ニーロに訊く。「サム・クック、マイルス・デイビス、ビリー・ホリデイ」と答える。脚本も手掛けた監督か、デ・ニーロの好みかはわからないが、思わずニヤリだ。スタン・ゲッツの「The Girl From Ipanema」やベニー・グッドマンの「Ain't Misbehavin'」も流れるが、このシーンでは「These Foolish Things」を選んでいる。サムも歌っているが、ここではビリーをフューチャーしたテディ・ウィルソン楽団のバージョンだ。選曲の妙とはこれか。

 1936年に作られたイギリス産のスタンダードで、グッドマン楽団をバックに歌ったヘレン・ウォードが同時期にアメリカでヒットさせている。♪口紅の付いた煙草の吸い殻、ロマンチックな所に行った時の航空券、隣のアパートから聴こえるピアノ・・・そんな些細なことがあなたを思い出させる、という未練がましい歌だが、センチメンタルなメロディーと相俟って心を打つ。アルバムタイトルになっている「Goody Goody」は、ウォードの大ヒット曲で、自分を振った男が別の女に捨てられたのを知って、ざまあみろ、よかった、よかった、というチョッピリ悪女の歌だ。この啖呵を切る歌唱が「These Foolish Things」をカラッと仕上げている。

 「俺たちに明日はない」や「イージー・ライダー」、「真夜中のカーボーイ」、そしてアメリカン・ニューシネマの最後期の「タクシードライバー」は若い頃リアルタイムで観ていることもあり随分と刺激を受けたものだ。「マイ・インターン」は黄金時代のハリウッド映画を思わせるハッピー・エンドだった。なんの違和感もなくこの類の映画を楽しめるのは演じるデ・ニーロも観客のこちらもそれなりに歳を取ったということだろうか。