
♪I'm trav'lin' light because my man has gone・・・あの人がいってしまったから身軽な旅をつづけるの・・・ビリー・ホリデイでお馴染の「Trav'lin' Light」である。作詞はジョニー・マーサーなので、メロディはハロルド・アーレンやジェローム・カーンというタッグを組んだ作曲家の手によるものと思っていたが、意外なことに曲は、Jimmy Mundy と Trummy Young の共作になっている。
マンディはアール・ハインズ楽団でアレンジャーとして注目された人でベニー・グッドマンやジーン・クルーパ、ハリー・ジェイムズ等のスウィング・バンドに華麗な編曲を提供したサックス奏者だ。一方、トラミー・ヤングは、ルイ・アームストロング・オールスターズのメンバーとして活躍したトロンボーン奏者で豪快なソロは定評ある。この曲はヤングがハインズのバンドにいたときによく演奏したもので、元の作者でもある。村尾陸男著「ジャズ詩大全」によると、アレンジもなく著作権の登録もしていなかったので、当時ポール・ホワイトマン楽団の編曲をしていたマンディにアレンジを頼んだという。当然、ホワイトマン楽団がそれを演奏する。それを聴いたのがジョニー・マーサーの奥さんで、このタイトルを付け、マーサーが詞を書いたそうだ。そしてホワイトマン楽団をバックにこの詞で歌ったのがビリーである。
1942年の古い曲だが今でも録音される機会は多い。シンガポールのジャシンタが、1999年録音のジョニー・マーサー集で取り上げていた。高音質な録音で定評のあるレーベル「Groove Note」の「Autumn Leaves」である。同レーベルの第1作「Here's To Ben」は、ヴォーカル・ファンよりもオーディオ・マニアの間で評判になったアルバムだ。勿論こちらも抜けるような音を楽しめる。ウィル・ミラーのトランペットのイントロからかなり遅いテンポで歌いだす。息づかいも聴こえるまったりとした歌唱はアンニュイというのか官能的というのか妙に男心をくすぐる。
ビリーはこの曲を三度録音している。最初は先に挙げた1942年にホワイトマン楽団をバックにしたもの、次いで1946年のカリフォルニアに於けるJATPのコンサート、そして1956年にトニー・スコット楽団が伴奏したものだ。それぞれに味わいがある。♪No one to see, I'm free as the breeze・・・私は風のように自由ね・・・このサビにビリーは惹かれたのかもしれない。