
今年の秋だったろうか、ペギー・リーの伝記映画の製作が発表された。2010年に企画が持ち上がったものの、予定されていた監督のノラ・エフロンが亡くなったことで保留状態になっていたものだ。今回、トッド・ヘインズが監督に決まったことでスタートするという。ペギー役はジョニー・キャッシュの伝記映画「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」のジューン・カーター役でアカデミー賞を受賞したリース・ウィザースプーンだ。
ペギーといえば自身が作詞した西部劇「大砂塵」のテーマ曲「Johnny Guitar」や、1958年に本家のリトル・ウィリー・ジョンよりヒットした「Fever」で、ポピュラーシンガーとして大きく括られるが、ジャズファンも見逃せないアルバムが何枚かある。ジャズヴォーカルの名盤として知られるデッカ盤「Black Coffee」をはじめ、ジョージ・シアリングと組んだ「Beauty and the Beat」、マックス・ベネットやスタン・リーヴィーが参加したジョー・ハーネルのバンドをバックに観客を沸かした「Basin Street East」、名演がレイ・ブライアントなら、名唱はペギーの「Golden Earings」が収録されている「Rendezvous With Peggy Lee」・・・
そして、「A Portrait Of Peggy Lee」だ。ヘレン・フォーレストの後釜としてベニー・グッドマン楽団で歌っていた1941年から42年の録音のなかから16曲を日本編集でセレクトしたアルバムである。若き日のペギーの瑞々しさにため息が出るが、当時のトップ・ビッグバンドに負けない歌唱力はとても新人とは思えない。この素晴らしいジャケットをそのまま切り取った曲が収められいる。「Blues In The Night」で、このとき21歳とは信じがたい夜と大人の雰囲気を醸し出している。この見事な歌を聴いたらバンドも熱が入るのだろう、グッドマン楽団の最盛期をこの時期とされるのはペギーの参加かもしれない。
映画といえば今月の29日から順次公開される作品に「ストックホルムでワルツを」がある。 スウェーデンのジャズシンガー、モニカ・ゼタールンドの半生を映画化したものだ。どんなに偉大なシンガーでもファンが知り得ない苦労や努力がある。もしかするとそれは隠しておきたいことかもしれない。伝記映画が良い作品と言われるのはこの部分をいかに描くかであろう。ビリー・ホリデイの映画が絶賛されたのはそこにある。